表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐の嫁入りを見てしまったら、九尾の狐の婿になりました。〜異世界スイートテイル〜  作者: 2番目のインク
第四章:ジプシー編 ― 星を渡る者たち ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
104/108

4-4.帰りたいと言った日

「……よかったっすね。」


静がきょとん。


「え?」


「正直、もう無理だと思ってましたよ。」


ユーノ。


「生存率、二%未満でした。」


セレナ。


「覚悟はしていた。」


ノクトが、ぽろん、と弦を鳴らす。


乾いた音が、夜風へ溶けた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



「……俺たちは団長についていくだけなんで、まぁ別にいいんすけど。」


眠たそうな目が、パパタローを見る。


「知らないっすよ、パパタローさん。」


「何が?」


ノクトは、小さく肩をすくめた。


「団長、本来はもう、こっち側の存在じゃないんで。」


風告げが、ちりんと鳴る。


「世界から零れて~

 星の狭間に落ちて~

 うちの神に拾われた~♪」


ぽろん。


「……なのに。」


ノクトの指が、弦を止めた。


「パパタローさん、団長の“帰る場所”になっちゃいました~♪」


夜風が止まる。


「それ、 普通ありえないんすよ。」


静が、不安そうにパパタローを見る。


ノクトは苦笑した。


「だって、帰る場所があるなら、漂流は終わる。」


ユーノが静かに呟く。


「星渡りの定義崩壊です。」


「うるさいっす。ユーノ。」


だがノクトの目は笑っていなかった。


「……しかも最悪なの、そこじゃないんすよ。」


「?」


ノクトが空を見上げる。


星空。


その奥。


何かを恐れるみたいに。


「パパタローさん、うちの神さんへ干渉しちゃったんで。」


ちりん——。


風告げが、静かに鳴いた。


「お前…。」


ノクトがじっとパパタローを見た。


「本当に音痴だな。」


「そっちですか!」


カリンが、こくりと頷く。

リディアも困ったように微笑む。

「いえ、個性的と言うか。」


「そっちも、そっちっすか!!!」


ユーノが淡々と補足した。


「音程誤差、平均三十二%です。」


「数値化すんなってお前もかぁ~…」


ノクトが落ち込んだ顔で返す。


だがセレナまで、静かに頷いた。


「……」


「セレナァ!?」


静が慌ててフォローへ入った。


「で、でもほらっノクトって、作曲は天才だから!存在を繋ぎ止める曲つくるんだよ!」


「慰めになってないっす。あ…なってるか。」


ぽろん。


弦が、しょんぼりした音を鳴らす。


「だかぁらーノクトが器を作って私が魂を入れるの!

なんて素晴らしいチーム連携!」


静がえっへんと胸を張る。


「そうっすよね。団長!」


ノクトも即座に乗っかった。


だが。


その声は、少しだけ嬉しそうだった。


ユーノが静かに呟く。


「肯定時、心拍数上昇。」


「ユーノ。」


「はい。」


「後で埋めるよ。」


「団長、こわい…」



カリンが半目になる。


「仲良いなぁこの人たち……。」


リディアが苦笑した。


「長い旅路を共にしたのでしょうね。」


セレナが静かに頷く。


「家族。」


その一言で、

空気が少しだけ止まった。


静が、ぱちぱちと瞬きをする。


ノクトは視線を逸らした。


ユーノは無言。


セレナだけが、いつも通り無表情だった。


そして。


静が、ふにゃりと笑う。


「……うん。」


風告げが、ちりんと鳴った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

「悪い悪い、質問のタイミングを失ってたんだが…」


「なんですか?」 

ノクトが気怠げに返す。


「うちの神さんって言ったよな。」


「言いましたねぇ。タイミングはわざとですよね!?」


パパタローが眉を寄せた。


「神さんって言い方が、なんか引っかかるんだが、

そのつまり…創造神連合……とかいう連中と関係者とか?」




ノクトの弦が、ぴたりと止まった。


ユーノが視線を上げる。


セレナも、静かにパパタローを見る。


「ま。まさか…。」


ノクトが、少しだけ笑う。


「……いやぁ。」


ぽろん。


乾いた音。


「連中みたいに、誰かになった神じゃないっすよ。というか、パパタローさん創造神連合にまで目ぇつけられてんの?」


「危ない人ですね。団長やめておいた方が…。」


「危なくねぇーし。」


星空が、静かに瞬いていた。


「うちのは、もっと古い。」


ユーノが淡々と続ける。


「世界外側観測概念体。」


「は?世界外側観測概念体?」


「簡単に言うと。」


ノクトが空を見上げる。


「星と星の間にいる、空白そのものっす。」


ちりん——。


風告げが鳴る。




――ぐら。


小さな横揺れ。


吊るされた風告げが、ちりん、と鳴った。


「……地震だねー?」


とカリンが辺りを見回す。


露店の店主が、「あーびっくりした」と笑いながら木箱を押さえる。


「最近多いな。」


揺れはすぐ止まった。


「避難するほどじゃなさそうか?」


「だなぁ……。」


誰かが、安堵したみたいに笑った。





その時だった。


――――ゴォォォォォン……。


遅れて。


腹の底へ響くような、低い爆音が鳴った。


空気そのものが震えている。


「…まさか、深淵の鐘?」


音は一度だけ。


なのに、まるで、遥か地下で巨大な扉でも開いたみたいな音だった。


馬が怯えたように暴れ、吊りランタンが、まだ揺れている。


風が止んでいた。


けれど。静だけが、じっと地面を見ていた。


その瞳から、さっきまでの笑みが消えている。


「……。」


石畳の隙間。


そこに。


黒い線みたいなものから、何か白い指先が、ずるり、と伸びた気がした。


いや。気がしたではない。静の喉が、小さく鳴る。


まるで、見覚えのあるものを見つけてしまったみたいに。


「どうした?静?大丈夫か?」


パパタローの声に、静は一瞬だけ返事を忘れた。


そして。


「……ううん。」


「……。」



「どうした?」



「昔ね。」



「星と星の間で。」



「同じ音を聞いたことがある。」


「そのあと、一つ世界が消えた。」


「そうか…」


静の無表情さを感じたパパタローはノクトに言い放った。

「まさか、お前ら何かしたな!?」


「できるか!」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


「お前ら。」


「……来るか?」


「?」


「うち。」


静が固まった。


ぱち。ぱちぱち。目をぱちぱち。


「……家?」


「おう。」


パパタローが頭を掻く。


「今の地震で回りもあわただしいし。行くとこないだろ?」



「わーーーい!!!」


静が飛び跳ねた。


「家だって! 家!!」


「団長テンション高っ。」


ノクトがぽろんと弦を鳴らす。


静はくるくる回りながら、

完全にはしゃいでいる。


「お風呂ある!?」


「あるぞ。」


「ベッド!?」


「ある。」


「屋根!?」


「あるに決まってんだろ!?」


「やったぁぁぁ!!」


カリンが、だんだん真顔になっていく。


「……。」


じとー。


「パパタロー。」


「なんだ。」


「静さんを家に呼んで、何たくらんでるの?」


「は?」


「変態!!」


「おいおい。」


パパタローが静を見る。


はしゃいでる。


めちゃくちゃ子供。


「静見てそれはないって。」


「確かに。」




ノクトが真顔で頷く。


「終着駅、かな…」


静はまだ、

「お風呂ー!」

とか言いながら騒いでいる。


その言葉に気づいたのは、

パパタローだけだった。


「ん?」


ノクトは、少し困ったみたいに笑う。


「いやぁ。」


ぽろん。


「星渡りって、本来止まらないんすよ。」


星空を見上げる。


「世界から世界へ流れて。」


「降りる場所なくて。」


「終わらない旅をする。」


風告げが、ちりんと鳴った。


「だから。」


眠たそうな目が、ほんの少しだけ細くなる。


「“家来る?”って、わりと反則っす。」


静はまだ笑っている。


「ベッドふかふかかな!?」


「知らん。」


「えぇー!?」


その声を聞きながら。


ノクトは、少しだけ安心したみたいに息を吐いた。


「……まぁ。」


ぽろん。


今度の音は、やけに優しかった。


「団長、ずっと降りたそうだったんで。」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


「よし、じゃあ行くか。」


パパタローが歩き出す。


「シチュー残ってたかな……。」


「シチュー!?」


静が即反応した。


「なにそれ!?」


「食いもん。」


「知ってるよ!?」


「知らないのかと思った。」


「ひどい!!」


カリンが吹き出す。


ノクトがぽろんと弦を鳴らした。


「団長、ちょろいっすね。」


「ちょろくないし!」


「シチューで釣られてる。」


「釣られてない!」


「じゃあ断る?」


「行く!!」


「即答やなー。」


夜風が吹く。


星空が静かに瞬く。


その下で。


静は、ずっと笑っていた。


まるで。


本当に、帰る場所を見つけたみたいに。




「じゃ、行くか。」




※ ※ ※ ※ ※


十分ほど後。


静は、城門の前で固まっていた。


「…………。」


巨大な白亜の城。


王都中央。


復興途中とは思えないほど荘厳な、リスフェルド王城。


静の首が、ぎぎぎ、とパパタローへ向く。


「……ねぇ。」


「ん?」


「家って言ったよね?」


「言ったか?」


「お城なんだけど!?!?」


「住めば家だろ?」


「スケール感どうなってんの!?」


カリンが呆れたように肩をすくめる。


「一応、カテリーナ女王様に復興頼まれて住んでるからねー。」


「住んでるからねーじゃないよ!?」


静が城を指差す。


ノクトがぽろんと弦を鳴らした。


「団長、帰る場所あれば何でも家なんじゃないっすか?」


「あ。」


静が止まる。


その言葉に、ほんの少しだけ、目を丸くして、頷いた。


「……うん。」


今度は、ちゃんと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ