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邪神の眷属になったようだが私は何をすれば良い  作者: 屯田観烏之羽(ミタミ・アノウ)
学校編
79/82

新生活の幕前

 アリスから受け取った紙に書かれていた内容は……落ち着こう。

間違いではないだろうが、この状況で渡す物でもない筈だ。

アリスも不本意だと言っている、本当ならもっと状況を整えてから渡したかった筈だ。

という事は……


『ちょっと待って。』


 急速に思考速度が加速する、周囲の時間が停止している様に感じる程速い。


『何だミラ?』

『今の話は今持ってる情報だけで判断しないで、君の記憶に掛けた封印を解くよ。』

『……ミラ、封印してある内容はミラも知ってるのか?』

『え?うん、聞いたから知ってるよ。』

『なら、解く前に私の判断がおかしくないかだけ聞かせてくれ。』

『……分かった、まだとくには早いしね。』


 そもそも私の封印されている記憶は、抜けている情報から推測できる。

それ自体は以前既に考えてあるし、おそらくほぼ間違いない。

親、血縁か育てだけかは判らないが親と呼べる相手の情報が一つも思い出せないのだ、これが封印されている情報の中心なのは間違いない。

が今は其処は如何でも良い、今重要なのはこの封印された記憶に巻き込まれて思い出せない他の情報、(すなわ)ち……


『アリスと初めて会った時の事が思い出せない。

ミラと会うより前の私とアリスの関係は良好だったとは言い難い、にも(かかわ)らずアリスとは代行者の相棒として長い付き合いだ。

恐らくアリスから強い要望でも出さなければ早々に代行者の相棒は変わっていた筈だ。』

『そうだね、君達の世界の基準で言ってエージェントは半端な実力では務まらないだろうし、少数精鋭である以上信頼関係は絶対に無視できない筈だね。』

『つまり……私とアリスの関係の間には、お互いに引け目を感じる何かが在る……それが、私の親か。』


 アリスが何かしらの原因を作り、結果として私の親は居ない。

この考えもそう間違っていないと思う、直接的でなく間接的に関わった……いや、アリスが狙われた結果巻き込まれた?

ハルムニクススの王家の縁戚(えんせき)に当たるアリス……アリシア『ハルメリアス』が狙われた可能性は有りえるだろう。

それに巻き込まれたのが私の親……或いは親が助けたのだろうか。

経過が判らないが結果としてアリスが残り私の親が居ないという現在の状況とは一致する。

アリスが私の傍を離れようとしない理由も……これなら理解できるだろう。

結果だけ見れば、私から親を奪ったのはアリスだとも言えてしまう、或いは言われてしまうか。

少し脱線した、今其処は関係ない。


 どのような形であれアリスの周りの環境が原因で他人が傷付いた、そしてアリスはその原因を取り除きたいと考えているなら……

この紙……婚姻届は……


『アリスは現在でもアルテーヌで預かっているだけでハルムニクススに所属していた筈だ。

政治的にもそう簡単に抜けるのは難しいだろうが、結婚を表明する事によってアルテーヌに正式に籍を移し、ハルムニクススとは縁を断とうとしている……どうだ?』

『うん、大体あってるね。』


 現状はまだ完全に把握できている訳では無いが、ハルムニクスス側で起きているらしい問題に巻き込まれる前に実行したいなら……今日中に決めて行動するべきと考えているか。


『そこまでわかっているなら……問題無いかな。』

『手間を掛けさせて悪いな。』

『これくらいいいよ、これも約束の一つだしね。』


 ミラとの交信が止まり加速した思考も戻っていく。

手元の紙は婚姻届だが要所の書き方が違う……そもそもハルムニクススの書式でアルテーヌでは受理されない。

この文脈の書き方だと婚姻届というより絶縁状だな。

以前から考えていて、今回の問題の解決策の一つとして流用できると考え、使うべきかで悩んでいたのだろう。


「先輩。」


 アリスが不安そうな顔をしている、手早く書いてしまわないと「やっぱり無かった事に」と言いそうだ。

既に口を開きかけているアリスに、少し待つ様に手で制してから婚姻届を机に置いて必要な情報を書き足していく。


「……良いんですか?」

「アリスなら私が拒否する事は無い、ただ……正式に出す分は待ってくれ。」


 アリスとの付き合いは長い。

初めて会った時が何時(いつ)だったのかが判らない関係で正確な年月は判らないが、代行者の任務等で基本的に二人で居る時間は非常に長いし、性的な接触も二度や三度程度ではない。

私は他人との繋がりを殆ど維持しない様にしていたから特に何も言われた事はないが、アリスはおそらく何度も言われている筈だ。

まだ結婚してなかったのか、何時になったら結婚するのか、と。

お互いに引け目を残した(まま)で結婚は無い、私もアリスもお互いにそう思ていただろう。

ならどうするべきかはきっと考えた筈だ、考えた結果が記憶の封印なのは判断に困る所だが。


「……はい。」


 アリスの嬉しそうな、しかしそれ以上に複雑そうな表情と返事を受けながら寝具へと誘う。

答えを急ぐ必要は無い、ミラが此方の事情を知り協力迄してくれている以上、後は時間が解決できる様に手配している筈だ。

今は……これで良い。

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