帰投
列車の中を見て回りたいというヤビィ達の案内をヴィクターに押し付けようかと思ったが、移動中に寝て着いたらまた書類仕事の様で早々に寝に行ってしまった。
ヤビィ達もそうだしスティルバス氏等も乗っている以上、関係者以外立ち入り禁止の設備のある場所には警備が立っているので放っておいても問題は無い。
問題は無いが、特にする事が有る訳でも無いので軽く案内に付いて回る。
ヤビィ達にとって列車は日常的な移動手段の一つらしいのだが、走行中に自動車で乗り込める様な大きさの物は無いらしく、車両の格納方法や補助装置類等を見て、形状から如何いった回収手段が用意されているのかを賑やかに議論している。
答えを出さずに内容を聞いていれば、まだ積んだだけで実用化していない機能まで言い当てている。
自分達の日常に存在しない物を見て、其れを何に使うのかを考え正解を導き出すというのはそう出来る事では無い、筈だ。
そしてヤビィ達の様子を見るに実在はしないが、しかし見た事は有る、という何とも不思議な感覚で議論している。
しかも見た事が有ると言いながら内容が食い違う事も多い、しかし食い違ってもその可能性も有るかと言い切ってしまう。
「……何度も確認する様で悪いが、君達は……」
「軍どころか、まだまだ教育機関で育成されてる子供ですよ?」
スティルバス氏も何度目か質問をし直している。
冗談では無い様だが、内容だけ聞いている分では冗談にしか聞こえない。
「どんな教育を受ければ君達の様になるのか是非聞いてみたいのだが……かまわんかね?」
「ん~……知識教育ばっかりで、他は放り出された結果な気もしますが、それで良いなら?」
知識教育はともかく他?礼儀と技術だろうか。
何となく違和感があるな。
「ヤビィ、知識でない教育とは何だ?」
「あーっとそうですね……道徳と技術に……社会?」
答えに自信が持てないのか仲間の方はみて確認を取っている、帰ってきた答えは「だいたいそんな感じじゃない?」だ。
「えっとまぁ……だいたいそんな感じです、正しくは……えっと情操教育と社会教育と職業訓練?
正直自分たちの住んでた国の法律すら怪しいんですよね。
他人の迷惑になる事をするなって事をひたすら小難しく書き連ねてあって勉強する気も起きなかったし。」
「専門家を用意してその人に丸投げするのが当たり前になってましたから、殆どの人は知らないと思いますよ。」
途中からアコト氏が交代して話し出した。
「なので私たちが勉強してたのは生活する上で有ると助かる知識とその発展が殆どですね、無くても問題無い物も多いですが。
そして学校、教育機関から離れて就職、この辺の前後で社会教育と職業訓練が有ったり無かったり、ですね。」
社会教育も職業訓練も、その名前から察するに非常に重要だと思うのだが、人によっては受けない、あるいは受けられない……という事だろうか。
確かにそれは放り出されたと言われても仕方が無いだろう。
道徳……情操?人として、いや人間として社会的生命体としての生き方、在り方だろうか?
今の説明では名前しか出てこなかったが……
「ふむ、情操教育とはどんなものかね?」
「さぁ?」
スティルバス氏の質問に即答で不明だと返すアコト氏。
「名前だけ聞いたことはあっても、いつ受けたのか、そもそも受けた事が有るのかさえ分からない物は説明が難しいですね。
ただ漫然と、動物を飼って育てれば良いという人もいた気がしますが、それすら出来た人がどれほどいるのやら、といった感じでしょう。」
「あ、補足します、情操教育は何種類かあって、要は感情に関する教育です。
ただ親類も含めて教育する人間側に問題があるケースが多くて、大体は昔話を読み聞かせしてその感想文を書かせるとかその程度以上の事はされないというか、させられないという感じです。」
それは……いや、こういった内容に言及するのは専門家に任せよう。
おそらく碌でもない結末になるのではないかと思うが。
そして話が逸れているな、いや最初の質問から少しずれていたか。
「あーその話……愚痴か?それはまた今度聞こう。
今聞きたいのは、実在していなかった物を見て、見た事が有るとか用途が把握できる様になった方の教育だな。」
「……あーなるほどそっちでしたか。
それは趣味、娯楽の影響ですね、未来予想とか科学的幻想とか、多少突飛であってもいつか出来るんじゃないかっていう……まぁ夢の集まりです。」
娯楽か。
この国でも娯楽はまだ研究が進んでいない分野だ。
過去や信仰、政治等の記録やそれを伝える為の伝記等はあるが、未来については確かにまだまだ考えが届いていない、この差だろう。
吟遊詩人でも探して集めれば良いだろうか。
次の次くらいには命令が出る可能性もありそうなので一応覚えておく。
「成程未来か、その話はぜひ詳しく聞いておきたいが……もうそろそろ着くな、続きは落ち着いたら聞かせて欲しい。」
そろそろ着くという言葉に反応して窓から外を見ようとしてるが、この位置からは森しか見えないだろう。
列車から降りるのに専用の降車口へ移動する必要があり、此処からは少し離れている。
減速に入ってから移動しても間に合うのだが、ヤビィ達はともかくスティルバス氏が減速に入った車内で歩ける程の運動神経は無さそうなので早めに移動する。
案の定スティルバス氏が一人、減速に入った瞬間に転がりそうになりエリセウス氏が支えていた。
勿論止まってから移動しても良かったのだが、列車の一両目の降車口は進行方向が見える仕掛けが有る。
案内をヴィクターに押し付けられなかった以上、ヤビィ達を招いた私がこの台詞を言うのが一応の決まりだ。
「さて、もう見えてきているし、既に国内に入っているので今更なんだが……一応代行者が案内してきた人物を街に入れるに当たって決まりがあってな。」
丁度今がこの台詞を言うのに良い瞬間、列車は軍様なので地下軌道に降りる前で見栄えも良いだろう。
「アルテーヌ衛星都市ベヘにようこそ。」
サブタイ帰投にしてからやっと帰り着いたってマジで言ってるの私……




