帰投
解散したは良いがそういえばまだ夕食を摂っていない事に気が付く。
ヤビィ達は先に食べていた様で、会議室の配置換えが終わった案内に来た隊員に付いて行った。
確か間食を買っていた者がいた筈だが、食事量が足りていなかったのだろうか。
……取り敢えず私も手早く夕食を済ませて食堂を出る。
代行者の立場がある私とアリスには一応個室が割り当てられている。
無理を言えば二部屋貸してくれるだろうが、特にその必要を感じた事も無いので今回も一部屋だ。
アリスは……まだ用が済んでいない様だ、部屋には触媒の子に、付けておいた使い魔と医療従事者の二人と一匹だけの様だ。
「お疲れ様です、容体に変わりはありません。」
静かな声で状況報告をされたので此方も静かに礼しておく。
正直やる事も無いだろうと思っていたが、此方が使い魔越しに本国に提出した報告書らしき書類を読んでいる。
おそらく医療従事資格は持っているのだろうが、本業では無いのだろう、どちらかと言えば術者だろうか?
「ふむ、既に報告書を持っているという事は……」
「えぇ……私の師から先んじて容体を見て来いと送られてきました。」
成程、上では既にこの件を誰に担当させるかが決まっていて、その研究室の助手を送ってきたのだろう。
報告書を渡されているという事は昨日の真夜中辺りに出発してきているのではないだろうか。
そう思って顔を観察すればやや窶れ気味に見える。
「……昨日の今日で相当慌ただしかっただろう、朝まで私が見ているので休んで良いぞ。」
「それは助かり……いえ、どの道この報告書に目を通して考えを纏めておかないといけないので……」
「あまり根を詰めても直ぐには如何にも出来ないだろうし……休むなら今の内だぞ?」
「む……そういわれると……ではお言葉に甘えて休ませてもらいます。」
この部屋で寝るのか……まぁ今日は人が多過ぎるだろうし問題も無いだろう。
アリスは……いやアリスも帰って来たので今日はこのまま休むとしよう。
「先輩、お疲れ様です。」
「アリスもお疲れ、用事は片付きそうか?」
「……ちょっと時間かかりそうです。」
「手伝えることがあったら何時でも言ってくれ。」
「……はい。」
不満そうな……いやこれはどうだろう、何とも言い難い感情を感じる……感じる?
アリスの混沌への適応化が進んでいるのだろうか、これはミラに聞いてみるべきだろうが……今は忙しそうなので落ち着いたらだな。
「とりあえず帰ったら……だな。
アリス、これからの予定だが――――」
アリスに今後の予定を説明して今日は休む。
とは言っても今日は初対面の相手も居るし、触媒の子を見ると言ってある。
そもそも寝れないのだから実際には休んでいないが。
朝か……特に何事も起きることは無く。
とはいえ初めから分かっていた事が。
「おはようございます!いやぁ久しぶりにぐっすり寝た気がしますねぇ……」
これだから研究者は……
そもそもこの国で一家族で暮らすのが禁止される前に、まず一人暮らしが禁止された理由がこれだ。
倒れる迄研究に没頭し、そのまま誰にも気づかれずにという事が頻発したのがそもそもの発端だ。
因みに家族だけが駄目になった理由は、家庭内での問題や事件が発生した際に隠蔽され易い事を問題視された結果だった筈だ。
ん?前にも考えただろうか。
ヤビィ達に国の成り立ち他説明する必要がありそうな事を纏めておく必要は……無いか。
普通に学校に任せるのが良い、その方が確実だろう。
「お節介だろうがもう少し身体を労わった方が良いと思うぞ。」
勿論深く寝れる様に睡眠状態を操作したのは私だが。
そこは説明したりしない、そもそも他人への魔術行使等は事前に承諾が必要だからだ。
今回は魔術は勿論法に触れそうな手段は取ってないが、その方法の説明を求められても面倒でしかない。
迎えに来ている方の研究者は昨日の夜に予定通り到着したのを確認している。
ヤビィ達には朝食後に紹介するが、此方は此方で先に挨拶しておくべきだろうが……まだ時間としては早過ぎる位なのでまだしばらくはゆっくりしていて良い。
食堂は常に開いているし先に朝食にしてしまうか。
「私は朝食を摂りに行くが……あぁそういえば名前を聞いてなかったな。」
「あ、そういえばアリスさんにしか名乗ってませんでしたね。
では改めまして……上級呪術科のクマル=イルミスです。
上級魔術科結界術専攻のドゥウェインさんの噂は聞いていたのですが……なんだか噂とは違う感じがしますね?」
「……まぁあまり良い噂は残しては居ないだろうという自覚はある。」
まだ十代後半位の凡人種に見えたが、既に上級科に名前を連ねている程の秀才だった様だ。
特に魔術科と違って人口も少なければ、研究もあまり進んでいない呪術科の上級ともなれば、戦いの才能さえあれば代行者が名乗れる可能性がある程だろう。
……そんな人材普通お使いに出すか?単純に人手不足もあるだろうが勿体無い。
事が事なので条件に適合する人材が他に居なかった可能性も高そうだ。
ベヘに戻ったら休暇の申請より就学の申請を出した方が良いかもしれない。
呪術科の人材不足が原因で、触媒の子の可能性を閉ざすのは流石に勿体ない。
恩を売るついでに多少でも呪術の発展に寄与しておくか。




