接触
「あぁ、戻ってきたんだね。」
赤い髪の女性は此方に気が付いて向こうから此方に寄って来た。
何処かで見た顔だな、確か……屋敷に救出しに行った時に話掛けようとしてきたのが彼女だったか。
確かにあそこに居た人間で一番積極的に動いていたし、他の人に指示や介助等もしていたから適任だろう。
「昨日の内に礼を言うつもりだったんだけど、うまいことタイミング会わなくて遅くなってしまった。
改めて言わせてくれ、昨日はありがとう、おかげで助かったよ。」
あー……今迄の任務の傾向上、あまり救助や支援といった任務とは縁遠いからこういう時に如何返すべきかで困るな。
普段ならアリスに任せるのだが今は休ませているし頼れない、難しく考える必要はないのだろうが……
「別件で近くに来た序で……の様な物だ、何方かと言うならあの屋敷の情報を寄こした此処の隊員に言ってやってくれ。」
「それはもう言ったよ、それでもあんたが助けてくれたのは変わりないさ。」
ふむ、そういう物か。
「まぁ……感謝の言葉くらい受け取っておこう。
其れより今後の事なんだが、私達は昼食後に国に戻る事になっている。
それで、此処では身体の状態の確認や治療等で出来る事はかなり限られているし、医療設備の整っている場所に君達を連れて行こうと思っているんだが……
君達の中で代表を立てた方が君達も動きやすいだろうし、君が代表として号令を出して貰っても構わないかな?」
「……あたいは代表とか言う柄じゃないんだけど、他の奴らは駄目そうだしなしゃぁないか。
わかったよ、昼食べたら昨日のあの馬無しの馬車に乗せてやれば良いよな?」
「あぁ、それで頼む。」
「あいよ。」
手を振りながら他の生存者の所に戻っていく彼女を見送る。
一先ずこれで急いでする必要のある仕事は終わっただろうか。
強いて言うなら本国にしている衛生設備や医療従事者の要請の返答をまだ聞いていないが、使い魔からの経過報告は問題なさそうだし大丈夫だろう。
後の事は……使い魔に任せてしまうか。
木陰にでも座って何も考えずに呆ける時間を作るだけでも、少しくらいは精神の疲労を取る事もできるだろう。
何も考えないという事を意識するのは、意識している時点で考えているのに近い。
何もせずに呆けるというのも難しい物だ、とはいえ誤差程度な気もするが精神的に楽にはなっただろうか。
日は既に高く、既に昼食の最中だろう匂いがする、おそらく携行食料を温めた物と汁物だろう。
とりあえず出発の準備を始めるか……と言っても朝の内に済ませてしまっているし特にすることは無いな。
「ドゥさん、昼食は食べないんですか?」
車両の動力を起動させていたらヤビィが椀を片手に寄って来た。
魚の干物と野菜の塩漬け……を粥の上に乗せて食器を一つに纏めたのか、まぁ味の薄い粥だろうし味付けに変わりに丁度良いのかもしれないな。
「体質上食べなくても問題無くてな、立場上此処の食料を無為に減らすのも憚られるが……いや君達は普通に食べてくれて構わないからな?」
「食料は重要ですからね、でも一人二人分節約した所で大して変わらないのでは?」
「まぁな、とはいえこの拠点は基本的に潜伏部隊用だから装備も設備も食料も最低限しかない。
既に補給の要請はしてあるが届くのにしばらくかかるからな、一人分でも二人分でも有るに越したことは無いさ。」
「そんなもんですか。」
残り少なくなった椀の中身を流し込んだ後、食器を一度返しに離れて行って直ぐに戻って来た。
「それで、次の目的地は何処ですか?」
「ん、そういえば昼に出るとしか言ってなかったな。
次は私の所属する国の国境にある基地だ、移動に二十時間は掛かるから車窓からの景色を眺めるのに飽きた時に何するか考えておいてくれ。」
「かなり遠そうですね、移動速度は今朝と同じくらいですか?」
「今朝より速める、あの速度で移動してたら三十時間はかかるからな。」
「あー……」
「まぁそれだけ急ぐ理由は、途中で止まる必要があるだろうからだな。
可能な限り負担を減らそうと思えば速度を上げるしかない。」
「移動する車内でも食事は取れるでしょうけどトイレだなんだで止まりそうですしね。
後はあの身体中に模様が書かれてる子の為……ですか?」
「そうなる、栄養面や身体の状態維持は刻まれてる術式に介入して補助してるからまだ数日は平気だろうが……」
「数日しか大丈夫ではない……と。」
「あぁ。」
ヤビィは其れで大体予想が付いた様だ、状況理解力も高そうだな。
そろそろ他の人も昼食を終えた様だし車両に乗ってもらうか。
「さてそろそろ出発しようか、君達は前の車両だ、後ろは別件で保護した人達を乗せる。」
「了解っす……後ろは誰が運転するんです?二十時間の長時間運転なら運転手は二人ずつ居る気がするんですが?」
「私の使い魔だな、厳密には車両自体が使い魔だが。」
「おー、魔法式自動運転、いや前方の車両を追尾するだけならとっくに実用化できてたか。」
「ん?」
「あ、こっちの世界の話です、魔法は無かったんですけど似たような技術があるのは面白いなぁって。」
「ふむ、その話は国に着いたら詳しく聞きたい所だな。」
今の発言だけでも彼らの重要度は随分上がったな。
話を聞きたいのは私より技術部の方が凄いだろうが。




