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邪神の眷属になったようだが私は何をすれば良い  作者: 屯田観烏之羽(ミタミ・アノウ)
騎士覚醒編
57/82

話にならない相手と話をする理由は無い

 アリスを待機させている地点に出られる緩やかな傾斜の道を作る。

歩く事も難しい状況の者が多く、屋敷の階段は傾斜が急すぎる。

使い魔をさらに増やして運ばせるにしても階段は使えないので仕様が無い。


 魔術は魔素という燃料を消費して物理現象に干渉する(すべ)だが、質量を変化させることは難しい。

無か有を作り出すのは難しいしその逆も同じ、物質の限界を超えた質量にするのもまた難しい。

隧道(トンネル)を作る場合ある程度は壁や天井に圧縮して固めるのに使えるが、今回の隧道の大きさ的に半分程は圧縮するのが難しいので除ける必要がある。

完全に無理でもないがこの辺りが効率的に丁度良い、除ける分は混沌に入れて後で放り出してしまおう。


 移送用の使い魔を数体出して直ぐに動ける人達を外に連れ出させる。

生存者はあとは奥の部屋に一人だけだ、地下空間で入口から一番遠い位置に隔離される様に設置されている辺りあそこが本命だろうか。

無傷ではないが比較的軽症の女性が此方に向かって来たが手で来るなと指示する。

恐らくあの女性も其処に人がまだ居ると思って頼みに来たのか、あるいは手伝いに来たのかもしれないが救助対象はそのまま救助されていて貰いたい所だ。

あそこは危険すぎる、生身の人間が近付いていい場所では無い。

この屋敷の人間はどうしていたのかと思ったが、入口に置かれた箱の中の矢鱈やたらと札の張られた服で防御していたつもりなのだろう。


 私が奥の部屋に向かうのを見た女性が地上へと向かっていたのを確認してから部屋の扉を壊す。

此処はどの道破壊するのだから鍵を一々開ける必要性も無い、可能な限り痕跡も消しておきたい、後で地上へ開けた隧道もそれらしく偽装しておく必要があるな。


 部屋の奥には……子供か。

呪詛系の触媒(・・)扱いなら子供の方が適合率や生存率が高い……等という論文は数百年前の物に有ったと思う。

実証実験をしておらず、論文自体も極少数の例の観測からの仮説と推論で信用性がほぼ無いに近かいので詳しくは覚えていない。

理由も……子供の身体がまだ未成熟で可変性を残している、とかその程度の情報しか無かった筈だ。

当然だが内の国でも実際にやったら犯罪だ、新しい情報も無くて当然。

それ自体は良いのだが、今はそれが逆に(あだ)になるかもしれないな。


「そう警戒しないで欲しいのだが、そういう訳にもいかないかな?」


 呪詛の触媒として既に完成してしまっているあの子には、当然いろいろな物が纏わり憑いている。

此処の実験の犠牲者の怨霊が多そうだが、他にも山程憑いている様だ。

(これ)を全て処理するのは骨の折れる作業に……いやそうでもないか?

とりあえず周りの怨霊から対処しよう。


「君達が何処の誰なのかは私には分からないが、私は君達に新しい選択肢を与えて上げられる。

一先ず君達の要望を聞かせて貰いたい、その子の元を離れて私に憑いてもらえるかな?」


 返事は、言語ではないが伝わってくる。

殆どは怨霊らしく恨みを晴らしたい様だ、屋敷の実験跡から推測するに相当非道な物だっただろうし当然だろうな。

他幾つかは生への執着と、まさに触媒に使われた子供の安全、怨霊と言うべきでは無い物も混じっている様だ。

……全てを望むままに叶えてやる事は出来ないが、やはりある程度なら叶えられるな。


「復讐ならばその機会を用意してやろう、他は……人間には無理だが新しい肉体、新しい命ならば用意できる。」


 殆ど詐欺の様な物だ、確かに新しい肉体は用意できるが、それは自由な物ではない。

だが道がある事だけは示せる、人の怨霊はこの契約に乗ってくれた。

他の悪意に釣られて集まってしまった人に由来しない悪霊は散らしてしまう、交渉にならないし時間の無駄だ。

散っても直ぐに集まってしまうだろうがそれは魔素暴走に巻き込まれるので大して問題にはならない。

契約に乗った霊は全て混沌に呑み込んでいく、復讐を求める霊には必要無いのだが、見ているだけで気分が悪くなる様な実験場を作った原因には相応の報いを受けさせたいと思ったら取り込まずにはいられなかった。

魔素暴走に乗せて、より危険度の高い魔物になる様に調整をしておく。


 これで纏わり憑いていた呪詛は殆ど消えたな。

次は目の前の子供だ、怨霊とかより此方の方がよほど酷い。

意識が無いが、このまま死なせてやった方が良いのではないかと言えそうな状態だ。

肉体の欠損こそ無いが、襤褸々々に成る迄殴打されたであろう跡、全身に血で刺しこまれた刺青(いれずみ)、切れた肌の傷口に湧いている(うじ)……こんな状態で生きているのはまさに先程居た子供を守る様に働き掛けていた霊の御蔭と言うしかないだろう。


 先ずは蛆の除去と傷の手当からだな、傷口一つ一つを丁寧に処置していく。

回復魔術は理論上は賦活(ふかつ)、偽装、遡行そこうの三種類あるとされる。

賦活は肉体の回復力を刺激して傷の直りを早める、偽装は傷を魔素や触媒等で埋めて直っている様に見せかける、遡行は傷そのものを無かった時間まで巻き戻す方法だ。

身体に蓄えられている栄養も力も無いので傷の治療は細胞の活性化を促す賦活は寧ろ危険だ。

遡行は理論上の方法論であって実在はしていない。

なら偽装するしかないが魔素で埋めるとそれだけで刺青が反応して呪詛を集めてしまう。

混沌でなら一先ず問題は無さそうだが、そもそも混沌が生身の人間に本当に安全かは分からないな。

しかし現状他に良い手も無い、偽装に使った混沌が回収できる迄制御を離さない様に気を付けるしかないな。


 一通りの手当を済ませてから拘束を外して外に連れ出す。

刺青の除去は今直ぐには難しい、既に憑いている呪詛は散らしては有るが呪術的に定着してしまっている以上刺青そのものを除去した所で意味は無い。

表面的に見えなくなろうが一度呪詛が焦げ付いた痕は消えたりしない、その痕を目指して呪詛が集まってくるのだから刺青そのものも目に見える状態に戻ってしまうだろう。


 呪術方面は禁忌と言われる事も多く、あまり研究したがる研究者も居ない所為で国に連れて戻っても任せられる医者も研究者も……いや、呪詛ではないが魂絡みならあの研究者の協力くらいは得られるか。

こんな場所では大した事も出来ない、多少強引でも手早く用事を済ませる必要が出来てしまったな。

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