一休み
部屋に戻る前に大佐を探す。
否、探すまでもなく大佐の気配を捉える。
ちょっと朝まで睡眠偽装の訓練していただけなのに気配察知力が向上している。
理由は大体予想が付くが、探そうと思った瞬間には基地内の気配を全て探知して、その上特定し終えているというのは探知系の術式を使っても無理だ。
特殊能力持ちでも、常に気配探知を張り巡らせている……位の能力者で漸く匹敵できるかどうか。
まぁこの身体になってからの能力の向上具合と非常識さを思い返してみれば、これくらいは当たり前にできてしまう芸当なのだろうが。
「大佐、昨日頼んだ件ですが。」
「あ?待て待て、いくら俺でもそんな直ぐに命令は用意できねぇよ。」
戸を叩いて入室の許可を得て、入室しながら命令はまだかと催促してみたが、流石に代行者の国外任務許可は取れていない様だ。
それもまぁ当然だろう。
国内なら兵装もほぼ自由に使えるが、国外に出るなら国内だけに留められている兵装等は持ち出せないし。
非公式任務ともなれば、装備どころか服も食料も偽装用の物にしなければならない。
ある意味では非常に楽だ、旅の用意が全て上から支給される事になるので自分で用意するものが何もない。
逆に言えば支給されたもの以外は全て持ち出せないのだから、人に依っては辛いらしいが、今の自分なら服の支給だけで十分だ。
「その件ですが、私もアリスも当分待機と言う形でも問題ないですよ。
何かあった時に即応出来るなら状態さえ維持できるなら問題にならないでしょう?」
「ん?それはそうだが……何をする気だ?」
説明するより見せた方が速いだろう。
自分の横に自身そっくりの使い魔を生み出す。
記憶の整理が終わった関係で、扱える混沌の量と質が大きく向上している。
術式の扱いに近い感覚で使えているので、記憶の整理を優先していたのは正解だった。
おかげで使い魔に持たせる能力の幅がかなり増やせたし効率も良い。
今横に出した使い魔を見てヴィクターはかなり驚いた表情をしているが、無視して説明してしまう。
この使い魔には、自立思考能力と私自身が扱える術式の大半の知識渡してある。
戦闘技術の付与はどうしても人形操作系に無理矢理行わせる拙い技術程度が限界だったため、後衛型になってしまったが使い物にはなる。
そして自立思考できるとは言え、基本的に私自身の精神と常に繋がっていて使い魔越しに会話もできるし、私もしくは使い魔の判断で何時でも私を召喚できる。
召喚される時にアリスを抱えて移動する事も可能だ。
ここまで説明してヴィクターが頭を抱えてしまった。
「あー……こうして見せて説明するって事は、その能力はあるものとして扱っていいんだよな?」
「えぇ、これ位は寧ろ知っておいて貰った方が後々楽なので。」
「知られてない方が良い気もするんだが、お前がそういうって事は冗談抜きのこれ以上があるんだろうな。
とりあえず相互通信及び召喚可能な使い魔って事で登録しておくか、頭悩ますのは俺じゃなくて国境管理部に任せた。」
国境程度は完全に無視できるから能力だし実に頭の痛い問題だろう。
召喚妨害の結界を国家規模で展開する事も可能だろうが、それをやってしまうと国内の研究や実験に影響するし精々首都か王城に用意する程度で収まるだろうが。
軍上層部も運用に頭を悩ますだろう、現状の車両の運用の関係で既に防衛戦略の見直しに追われているそうだしな。
より高速で展開できる規格外戦力として、保険程度の扱いでしばらくは保留だろうか。
「まぁ分かった、この使い魔を基地に置いておくから実質国内に居るという扱いでなんとか許可を取っておこう。」
「後は兵装ですが……研究所からこの前の実験の事後検査結果は届いてますか?」
「……あぁ、正直あれも目を疑うレベルの事ばっかりだったぞ。」
「なら既に分かっているでしょうが、偵察中に必要な食料は一人分で十分、そもそも食料位は何とでもできますし最悪こいつに送らせるので予算無しで問題ありません。」
「武器類は自前で整備できるし、使い捨ての兵装類はそもそも持たせられないし、確かにそうだな。」
「人里に寄るかは状況次第ですが、金銭が必要になるような事は正直ないでしょうからそれも不要でしょう。」
「実に財政にやさしい兵だな、軍部からも財務からも文句は出まい、明日中には許可が出る様にしておこう。
しかしお前、そこまでわかってるって事は……」
「記憶周りなら大体整理が終わったので、ほぼ平常状態と思って頂いて大丈夫です。」
これで大体の報告と連絡は終わりだ。
ヴィクターはやれやれと言う顔をしているが、まぁ何時も通りだな。
この程度は日常茶飯事とまでは行かないが、ヴィクターとの関係性はこれくらいで以前通りだろう。
寧ろ後始末で迷惑を掛けない様にしている分、以前よりかは多少改善している筈だ。
「平常状態って言ってもな、以前のお前はもっと棘があったからなぁ……まだ少し別人を相手にしているんじゃないかって感覚が抜けないんだがなぁ。」
「……それは以前の方が平常じゃなかったと思ってもらった方が良いかもしれません。」
記憶上での以前の自分は何時も焦りと苛立ちに怒りと心が平穏から遠い。
その原因は全て鍵を掛けた記憶の中だ。




