特異個体
門から溢れる魔素を混沌が吸い上げていく。
濃密な魔素溜まりは、魔物が発声する原因になったり、魔素災害の原因になったりと、とある例外を除けば基本的に有害な状態だ。
故に回収するのは門の此方側の処理として適切だが、先に門の彼方側に対処しなければならないのではなだろうか。
そもそも魔素が門の向う側から垂れ流しなのだから、此方に溢れている分を回収した所で……等と思っていたのだがちゃんと意味はある様だ。
門の周りの魔素が急速に薄くなっていり、門そのものも大きく揺らぎ始めた。
元々蜃気楼の様な状態だったが、完全に門事態が崩壊を始めている。
ミラが今やっている作業の殆どは周辺の魔素の回収の筈だが成程、此方側で魔素を吸い上げることで門の彼方側から魔素を引き釣り出しているのだろう。
召喚術なら、被召喚者を呼び出す一瞬だけ門が開けばいいのだから、被召喚者側に出現する門を維持する必要がない。
だがそもそも被召喚者側の門を開いているのは被召喚者自身だ、つまり門を開く為には両側から干渉する必要がある。
彼方側は彼方側にある魔素だろう、門を超えて魔素が溢れるほど存在しているのだ、その魔素で彼方側の門は維持されているのは間違いない。
そして此方側も彼方側から溢れてくる魔素で維持されているのだ、おそらく両側の魔素量を調整するように術式が組まれて調整している筈だ。
なら単純に此方側の魔素が薄くなるだけで彼方側の魔素を此方側に釣り出せる、釣り出した魔素はそのままこちらで回収すれば何れ維持できなくなって消滅すると、門事態を封鎖するのは簡単そうだな。
問題は彼方側だ。
此方側に魔物他が出てきている事から此方側から開かれている門だと思っていたが、これは逆だ。
彼方側の魔素や魔物を此方側に放出する為に開かれている門だ。
それを封鎖するのだから当然彼方側の反応は……特に無いな、考え過ぎだっただろうか。
『ごめん、完全封鎖前に一匹漏れそう、そっちは頼んでいい?』
有った様だがそれくらいは想定の範囲内だろう。
僅かに彼方側に送り込んでいる混沌で、彼方側から此方側に来れない様に細工をしていたのだろうが、細工は細工。
元より大した量送っていないのだから当然の結果だな。
『問題無い、それくらい此方に回せ。』
何が飛び出すかは問題だが、ミラが特に何も言わない辺り十分対処できる範囲だろう。
アリスは後ろで縄張り争い中の特異個体に対処しているから、一人で対処する必要はあるだろうがそれは別に問題にならない。
というより、まだアリスと戦闘関連で調整をしていないので連携はお互いに危険だ。
合わせられない事は無いだろうし、それはアリスも思っているだろうが必要もないのに実戦で危険を冒す必要もない。
門の形状が崩れて完全に機能しなくなるまであとニ、三十秒と言ったところだろうか。
此の場所は、門から出た魔物や縄張り争いで開けた空間にはなっているが、足元は流石に折れた木の幹や株で不安が残るな。
岩系統で、いや樹系統の術式で直接動かしてしまうか、いやもっと楽に使うのもありだな。
株に術式を撃ち込んで掌握していく。
幹は流石に邪魔だ、運動力を与えて空間から弾き出す。
これくらいでいいか。
門が完全に崩れる直前に一匹の影が……また四つ腕か。
牛鬼の様な顔と体勢をしているが、そんな楽そうなものではない。
だいたい十三尺位の体長に全身金属鎧の様な防具で固め。
腕は四本、両側のそれぞれ下側の二本で柄が二十三寸位はありそうな斧槍を、残りの二本にはそれぞれ六尺六寸の大太刀……体格が大き過ぎて唯の太刀にしか見えないが、大太刀を構えている。
俊敏性も重装備の割に悪くはなさそうだ。
これを真面に相手にするのは疲れるだろうな。
先に仕込んでおいた術式を使うか。
この特異個体の牛鬼も此方を見て、敵が私だとしっかり認識した様だ。
機会的にも丁度良い、此方を見てその様子を観察して出方を窺う。
その動作は間違いなく一対一の戦いでは大事な動作だ、アリスの方にも一瞬視線を飛ばしたが丁度距離が離れているのもあって此方に集中している。
これがお互いに何も仕込んでいない決闘場ならばそれで良かっただろうが、生憎と此処は決闘場ではない。
そして先に仕込みを終えている私に意識は集中するのは失策だ。
此方が斧槍を持って対峙する姿勢を取れば、ニヤリと言う擬音が合いそうな顔を浮かべて構えを取ったが。
残念ながら付き合ってやらないと最初に決めた段階で既に術式は起動済み。
此方の重心と体勢から今にも飛び掛かってくると、そう思ったであろう瞬間、牛鬼の足元から木の根が突き上がる。
五属性論上、樹系統は岩系統に属する金属には有効打にはならない。
だがそれは理論上の話だ、実戦で対等な力関係で属性が争ったりしない。
多少有利なだけで強い方が勝つ、更に言えば単一属性で術式運用するのは三流だ。
地面から突き上がる木の根の先端は燃え上がり、中心は土と岩。
樹系統で操られた木の根の先端を、火系統で燃え上がらせて灰と熱を生み、土系統で灰を集めて固め、岩系統で固めた灰をさらに強固にする。
火系統は当然岩系統、則ち金属に強く纏う鎧から硬さを奪うおまけ付きという、金属鎧を貫く為に生まれた様な魔術だ。
術式的に邪魔になる水気も、丁度後ろの方で粘性生物の丸焼きを凍結した煽りを受けていて実に行使しやすい。
そして突き出た根が一本だけな訳もない。
瞬く間に針山が出来上がり処理終了だ、もう少し手応えがあってもよかったのだがこの程度だったか。
風邪引いて遅くなりました。
最近寒いわ。




