特異個体
岩の塊の様な特異個体は、叩いたら割れたが倒すには至らなかったようだ。
岩の破片に混じって黒い液体が飛び散っている。
岩の塊そのものに魔術的、もしくは魔法的に生命を吹き込まれた傀儡人の類かと思ったのだが、普通に生物の様だ。
明らかに岩とは違う、筋肉や内臓の機能を持っているだろう器官が幾つか飛び出している。
身体を覆うように岩を付着させている生物と言うべきだろう……記憶には無いな。
そして露出している器官に致命的な物は無いのだろう、魔術を使って反撃してくる。
人間の魔術は、魔素を燃料にし”術”式で性質を調整して扱う。
一方魔獣や魔物等に分類される動植物は、魔素を燃料に自身の性質に近い属性を与えて扱う”術”だ。
人間は術式を介す事で多様な魔術を扱うが、一方動植物は属性に特化するため、同じ魔素量でも威力や強度がまるで違う。
この岩の塊が持つ性質は勿論岩だろう、故に岩に類するものでは撃ち負ける、普通ならば。
現在の魔術における属性論は、火は岩に強く、岩は樹に強く、樹は土に強く、土は水に強く、水は火に強いとされる。
勿論その理論は全く同じ魔素量を、まったく同じ出力で撃ちだした時の話だ。
だがここは定石通りに火に類する魔術を使う。
岩の塊から放たれた魔素が石の飛礫に変質して飛来する。
その変質した飛礫に籠る魔素量と、ほぼ同量の魔素量を籠めた炎の弾で撃ち墜とす。
本来不可視の魔素そのものを認識し、即座に術式に反映して撃ちだす一種の早業だ。
魔素にまず属性を与えて変換する動植物相手に対しての業だが、術式自体が認識できれば人間相手でもできるだろう。
そして魔術を行使するための魔素は、体内から取り出されて使用される。
空気中に漂う魔素をいったん体内に取り込み、自身が扱える形にする必要がある為だ。
則ち体内に魔素を取り込んで貯蔵、変換し、使用するための器官があるということだ。
……つまり。
石の飛礫を放った岩の塊の魔素の動きから、その為の器官……魔臓の位置を割り出して破壊する。
槍斧を振るい、岩の塊を砕き、露出した部位から魔臓へ向けて、火力と貫通性を強化した炎の弾を撃ち込む。
……破裂したな。
途端に身体が動かなくなったのであろう岩の塊を放置して、基地司令の所に向かう。
既にアリスが一通り挨拶し終わっている様だ。
戦闘を終了したことに気が付いて司令から話しかけてきた。
「お手数かけて申し訳ないジェラルド卿、当方の配備兵装では岩の粉砕など想定外でしてな。」
駐在戦力では、常時岩属性の防御魔術を展開している特異個体に歯が立たずに、基地司令直々に押さえに出てきていた様だ。
もう少し魔導銃の出力を上げる手段を用意しておけよと言いたい。
「私共はこのまま一回り他の地点に接近している敵を潰してから引き揚げます、増援も来ていますので基地司令殿も一度基地にお戻りください。」
「了解した、支援に感謝する。」
とりあえず戦場で何時までも喋っているわけにもいかない、さっさとやるべきことをやってしまおう。
「アリス、A地点方面から回り込むようにいくぞ。」
「了解です、司令殿また後程。」
さっさと回らないとアリスの食事が遅くなってしまうし、手早く済ませたい所だな。
前線に到着した時と同様に森の木々を利用して空中を翔ける様に移動する。
アリスは……人型で走りながら狼形態に変身していた。
初速がどうしても遅くなってしまっている分はこちらで合わせておく。
一番苦戦していたD地点があっさり片付いたので、正直二手に分かれてしまってもいいのではないかとも思うが、油断は禁物だ。
何と言ってもまだ味方が交戦してない敵を攻撃するのだ、先程と違って敵は疲弊していないし取り巻きを抑える兵力も無いのだから。
しかし時間が惜しいのも間違いない、取り巻きは多少散らす程度で放置か、アリスに任せてその間に次の地点に行くのもありか。
既に飛ばしてある使い魔が、面倒そうな敵の集団と原因に関係ありそうな地点を既に見つけている。
そっちに行ってしまいたくもあるが、行けば解決する訳でもないだろう。
思った以上に敵の数の圧が一般兵に負担を強いている、放置して瓦解されると面倒だから増援と交代できるまでは支援する必要があるだろう。
次のC地点に接近している特異個体は、緑色の肌の巨漢……緑巨人に角を生やした様な個体だ。
大鬼と混じりでもしたか、まぁ人型なら弱点は分かりやすいので瞬殺して次だな。
「アリス、ただの雑魚だ。
先にB地点裏に行っててくれ、特異個体の首だけ速攻で落とした後、A地点裏に回ってから合流する。」
速度は落とさずアリスに近づいて指示を出す。
アリスが一度首肯したのを確認し、速度を上げて特異個体の居る集団に突撃する。
とりあえず緑巨人と大鬼の特徴を足した存在として処理しよう。
装備毎身体を闇に同化させるのは既に車両でやった、そのまま闇の弾として取り巻きを無視して突破する。
すれ違う瞬間に闇化を解除して斧槍を首に叩きつける。
衝撃と慣性が乗った結果その首は大きく飛ばされていったが、これが緑巨人ならまだ死なない。
緑巨人は脳と心臓の二つを潰して初めて殺せる、魔臓はその両方にあるから首だけ残っても再生してしまうからあの首は後で潰すとして、まずは心臓を潰す。
首の切断面から刀を突き刺して心臓を貫き、術式を刀の刃に伝わらせて心臓を直接爆破し、爆発の衝撃を利用して飛び上がる。
後は残った頭を……頭だけで魔術攻撃をしようとしているな。
大鬼が扱う魔術は人の扱う物によく似ている、というより大鬼から人として進化した種、鬼人もいるぐらいなのでほぼ人と同じだ。
洗練されていないという点に目を瞑ればだが。
術式が見えているので対抗するのは容易いが、いちいち付き合うのも面倒だ。
短剣を投擲する。
もちろん短剣には爆発効果が付与されているので、現物を使ってしまうのはもったいない。
闇で複製した物を使用する。
効果の程は、些か爆発の光も煙も黒い位の違いで、現物とほぼ同じくらいの効果は出ていそうだ。
とりあえずこれでこの地点はいいだろう、爆発した短剣を闇に戻して回収する。
次は一つ向こうの集団だな。




