招集
静かな微笑みを浮かべるマーリンが、アリスを連れていってしまった。
仕方ない、着替えはゼブルに頼むか。
「ハハハ、アリス殿は自由でいらっしゃいますな。」
既に後ろに居たか、おそらくマーリンもアリスの着替えの手伝いに来ていたのだろう。
とりあえずさっさと着替えてしまうか。
前回と同じようにゼブルに着替えの仕上げをしてもらう。
もう着るだけなら特に問題は無いのだが、装飾がよくわからない。
微妙に前回と付けている勲章も違う、何か法則でもあるのだろうか。
着替えを済ませて居間で待つ。
待つ事十数分位だろうか、アリスが着替え終わって出てくる。
説教?いや論争でもしていたのだろう、まだまだお互い言いたいことはありそうな顔をしているが、とはいえ招集されているのだから早々に切り上げてきたのだろう。
「では行ってくる。」
「行ってきます。」
何はともあれと言うべきか、アリスと共に家を出る。
目的地は前回と同じだろう、アリスの後ろを歩く必要はないな。
「いきなり招集とか何でしょうね。」
アリスが不思議そうに首をかしげながら歩いている。
ミラから事前に、というか直前に情報を貰っている身としては心当たりがあるが、逆にそれ以外の理由は思い当たらない。
それに、まだ事前に申請して受理されている休暇中だ、他に召集できる人材が足りないとも思えないし、そういう意味では私も不思議だ。
「彼方此方で何か問題が多発していて、人手が足りない……なんてことは無いと思いたいがな。」
「後は……そうですね、以前私たちが担当した交渉案件絡みで指名されてるとかかなぁ。」
交渉絡み?それこそ他の人に……いや以前の案件絡みで向こうが指名して来る事もあるか。
まぁそんな案件覚えていないんだが。
「それは……面倒そうだな。」
「まさかまた古龍種絡みなんてこと……」
古龍種なんかと交渉することがあったのか。
そんなものと交渉したことがあるだけであちこちに引っ張られそうな気も、いや逆に使い辛くなるか?
「……まぁ行ってみない事にはわからないだろう。」
「そうですね、さっさと行きましょう。」
まぁ十中八九、ミラから貰っている情報絡みだろうけどな。
「急に呼び出してすまんな。」
ん?
前回同様の施設に入ったはいいが、地下の執務室ではなく玄関にヴィクターがいた。
「あれ?部屋の外にいるなんて珍しいですね。」
アリスも珍しがって……いやその反応も如何なんだ。
「お前は俺のことをどう思ってるんだ。
まぁいい、北部の山脈から緊急で支援要請が来ている、俺も行くがお前らにも手伝ってもらいたい。」
「緊急ですか?その割にはずいぶんゆっくりしてますけど……」
「お前なぁ……」
アリスとヴィクターの会話を横に聞き流しつつ情報を整理する。
北部の山脈は……上空に飛ばしている使い魔からの目線で確認できた。
かなりの標高を誇る山脈だな、頂上よりも低い位置に雲がかかっている。
「お前らの装備も含めて物資の用意をしている所だ、夕刻には出発するぞ。」
使い魔の数を増やすか、情報は重要だし収集用に各地に派遣しておきたい。
しかし私の身体から出してしまうと目立つな、既に出ている使い魔から出せるか?
今使い魔に渡してある混沌の量は……一体だけなら問題は無さそうだが個々の能力的に問題になりそうだし駄目だな、一度何処かで回収しよう。
「ドゥ、魔動銃の使用方法は覚えて……あーアリス、教えてこい。」
「了解です、先輩行きますよー?」
む、話題が此方に向いた。
魔導銃か、この前短銃の方は見たが、扱えるかと聞かれると難しいな。
そういいながらヴィクターもアリスも地下に移動し始めている。
「了解……ではまた後程。」
「おう。」
ヴィクターとは地下に入って直ぐに分かれた。
以前行った執務室の反対方向から、細長い通路の様な空間がある部屋に出る。
射撃場か、射程は……ざっと三千三百尺といった所か。
アリスは壁際に立つ縦長の鍵箱から、二丁の銃を取り出している。
些か雑と思ったが訓練用だろう、以前見た短銃から見て取れた術式と違って、殺傷性が無いどころか如何に改造しようとも殺傷性が出ない様な書き方をしてある。
この無駄に膨大術式を的側で反応させるのだろう。
「先輩、訓練用の魔導銃ですが、扱いはほぼ一緒です。
一先ず使ってみてください、変なところと間違っている所だけ訂正します。」
アリスから魔導銃を受け取る、と同時に軽く使い方が頭に浮かんできた。
安全装置の外し方と射撃方法、弾倉は今回は触る必要はない。
とりあえず既に出ている的の方に向けながら、銃に付いている物理的な安全装置を解除する。
実弾銃の名残だが、使い方を知らない人が使えない様にする措置の一つだ、無駄ではない。
それから銃把に魔素を送り込んで機関を起動する。
弾倉は撃ちだす弾の術式が記載されている、訓練用のこれは交換できないが。
以前やった魔動短銃の術式を暴発させるのは、弾倉に直接魔素を送り込むだけでできる。
銃と短銃の最大の違いの一つで、保護機能を機関部が持っているかいないかの差だ。
とはいっても魔導銃も機関部を起動しないと弾倉が無防備なのだが、これは改善点として報告しておこう。
もっとも、魔導銃はまだ他所の国では制作も出来ていないだろうから、当分の間は内輪で揉めた時にしか問題にならないだろうが。
とりあえず銃の状態は問題なさそうだ、一発だけ撃つ。
的は一番遠いのを狙ったが……当たったな。
「普通に使えてますね……というかスコープも無しに1キロ狙撃をいきなり当てるとかどうなってるんですか。」
確かに普通は当たらない、というか実弾銃時代から散々言われていたことだが、普通に考えて銃器で最大射程距離を当てるのはほぼ不可能だ。
まずそもそもの問題として目標が目視できない、魔導銃は撃ちだす際に使った魔素量で射程が調整できるが、普通に撃ちだす分にはこの射撃場の倍の距離位なら普通に届く。
目が良いと言われる鳥人類でも豆粒にも見えないと言わせる距離だ。
望遠照準器越しに拡大してみてようやく捉えられる距離だ。
さらに弾は落ちる、魔導銃になっても変わらず実弾程ではないが落ちる。
風にすら流される、大したことの無い質量の物にすら弾かれ逸れる、弾は直進しない。
さらに発射時の銃口の角度の狂いが遠距離であるほど大きく影響する。
呼吸の僅かな揺れ、筋肉の振動、引き金を引く指先に力を込めたその揺れですら照準は狂う。
ふむ、風の影響を考慮しなくていい室内で、望遠照準器に頼るまでもなく自前の視界で捉えられ、呼吸自体していない、筋肉で動いていない。
十分に当てられるな。
試しに九発、先程と合わせて丁度十発分になるように、かつ今度は連続で撃ちだしてみたが全て当たった。




