日常の勉強
一先ず必要な報告は終わった。
しかし昨夜のあれで手緩いと思われていたとは、以前なら重傷者多数になるまで攻撃したのだろうか。
記憶が無くなった程度で人格がそうそう変わったりはしない筈だと思うが……いや、そういえばミラと長く話し込んでいた気がするな。
かなり記憶が飛んでいるが、年単位で話し込んで……年単位?話以外にもしているだろう。
人格の変容はそれが原因だろう、具体的に何があったのかは思い出せないが。
まぁ今日の予定はこれで終わりだ。
さっさと病棟に戻るべきか、早めに戻れとも言われているしもう既に日が高い。
自分の身体の事を知る事は重要だ、おそらくミラに聞けば全部答えてくれるだろうが、ちゃんと調べておく方がいいだろう。
数字で欲しがる研究者にはその情報を渡すほうが効果的だろうしな。
アリスの報告も終わったようだ。
「はぁ~、お前らまた面白そうな実験に参加したなぁ。
事前に報告を受けていた以上に面白そうじゃないか、ちょっとその研究主任と話したいから後で連絡するって伝えといてくれ。」
こんな反応しているが、それでいいのだろうかと一瞬疑いたくなるな。
まぁ断片だけある情報で言っても、この国で人体実験は珍しい事ではない筈だ。
面白そうで済まして良いのかどうかは、……謎だな。
国民性と初期教育に関わってくるし、まだこの国の住人の一般的な思考がわからないから判断に困る所だ。
「とりあえずドゥ、アリス。お前たちが事前に出した休暇の期限までまだ二週間はある。
そもそもお前らは通常任務がほとんど振られないんだから一月は暇を持て余す事になるだろうし、さっさと身体治して休暇満喫してこい。
二週間後に経過報告にだけ上げるの忘れるなよ。」
「了解です。」
「んじゃぁ報告御苦労、後始末と他に手を出してきそうな所への牽制はこっちでやっておくからさっさと休むように。」
隣でアリス敬礼するアリスの動作を見て敬礼し、退室しようとしたが待ったがかかる。
「あぁ待てアリス、ドゥは中証持ちだった筈だ。
後々問題にされるのも面倒だから休暇中に最低限一般教養を教えておいてやれ。」
「もちろんそのつもりですよ。」
チュウショウ?一般教養は間違いなく聞くつもりだったが、問題にされるとはどういう物だろうか。
すぐに聞いておいた方がいいかもしれないな。
「ん、今度こそ御苦労さん。」
今度は敬礼しない様だ、これもよくある事なのだろう、そのまま退室する。
施設を出るまではお互い無言だった。
「さて先輩、今日はさっさと病棟に戻って休みましょう。」
「待て待て、まずチュウショウとやらについて教えてくれ。」
彼女としてはまず休息をとって欲しいという気遣いなのだろうが、懸念事項には早めに手を打ちたい。
アリスは一つ溜息をつき、渋々といった感じに口を開いた。
「はぁ~、先輩にはまず休んで欲しいんですけどしょうがないですね。
中証は、中位国民証の略称です。下が低証、上は高証になります。
この国は知識力や思考力、研究力で国民を階級分けしていて、それらの総合評価で五段階の国民証を発行しているんです。」
国民証のことだったか。
「中証は国民全体で二割しか発行されていない優秀な人材であることの証明になります。
ただ中証以上は定期的に査察が入るんですが、そこで低い評価がつけられるとその、大変面倒なことに。」
純粋に国民証というだけでなく、仕事等の配分やその対価に影響してそうだな。という事は……
「ふむ、不正疑惑から吊し上げ辺りか、面倒だな。五段階評価ならあと二つは?」
「一番上の特高証、特別高位国民証と一番下の無証、基礎教育受講段階の国民証無しです。どちらも例外みたいな物なので普段は気にすることは無いです。」
五段階だが実質三段階みたいなものか、高証一割とすれば低証は七割、人数的にも当たりが厳しそうだな。
「あと、この国は一応は民主政権なんですが、参政権も投票権も中証から発生するので、低証から批判されるようになったりとか。」
……予想以上に面倒な事になりそうだな。
「まぁでも、研究や実験に参加した人には査察が一時免除されるのでしばらくは大丈夫なはずです。」
とりあえずすぐにどうという事は無さそうだな、再勉強する方がいいか、記憶を無理やり戻すのがいいかは考えておかないといけないだろうが。
「ふむ、直ちに問題になるようなことは無いか。なら素直に戻るとしよう。」
「はい、先輩は当分病棟暮らしになりそうですが、諦めて休んでください。」
休むために諦めるのか。
以前はどれだけ働いていたのか聞いてみたくなる台詞だ、おそらく答えてくれないだろうが。
病棟に戻る道は昨夜の内に確認しているから並んで歩けば、少しだけ嬉しそうな顔をした彼女の横顔が見れた。
「まぁ今日はあきらめてゆっくり休むとしよう。
アリス、明日以降の予定は開いているか?」
「明日も明後日も先輩のお見舞いと勉強にお付き合いです!」
有無も言わせず予定を確定させる気か、こちらから頼むつもりだったから良いのだが。
「なら頼む、当分は世話になりそうだな。」
「当分じゃなくてずっと世話になってもらってもいいんですよ?」
「なんとなく駄目な気がするので遠慮しておこう。」
むくれた彼女の頬をつついてやりたくなったがそれは我慢した。




