05
しかたない。俺たちで迎え撃つしかない。しかし、ここで迎え撃っても短時間で破られるだけだろう。とにかく騎士団が来るのを待つのだ。そろそろ準備は終わったころだろう。貴族は準備に時間がかかるからな。簡易なものでも出陣式とかやるし、神に祈ったりするし。領主の激励の言葉なんていうのもある。
時間を稼ぐためにはここは撃ってでるのがいい。奴らの中に入り込みかく乱するのだ。そうすれば立て直すのに時間を稼げる。俺は10人の精鋭を選んで、作戦を伝える。
「いいでしょう。やりましょう隊長」
「いよいよ戦えるんですね」
「隊長と運命を共にします」
隊員たちの士気は高い。ありがたいことだ。こんな俺についてきてくれるなんてな。
「では、門を開けろ!」
俺は門の騎士に声をかける。俺は騎馬で駆けだす。それに従って石の門は開いていく。
俺の後にも騎馬は続く。俺は敵軍の中央を突っきる。もちろん邪魔な魔族は斬る。
部下たちも俺に続く。何度も訓練したとおりの動きだ。本当に頼もしいやつらだ。
俺たちはまるで一匹の竜のように敵陣の中で暴れまわる。
オーク、獣人、ゴブリン、オーガ。そういう戦士たちをなぎ倒していく。敵陣は乱れた。
俺たちの突撃は見事に決まったのだ。魔族の最前列は一時的に混乱し、奴らの軍勢に波が広がる。オークがうめき、ゴブリンが吹き飛び、オーガすら足を止めた。部下たちは訓練通りに俺の後に続き、矢のような鋭さで敵陣を切り裂いた。ほんのわずかな時間だが、奴らの進軍は完全に止まった。
……それだけで十分だ。
「よし、戻るぞ!」
退却の合図を出すと、仲間たちは即座に反転。俺が殿を務め、迫り来る獣人たちを切り払いながら後退した。
魔族たちも追ってくるが、俺たちの騎馬の速さにはついてこれない。やはり先鋒の部隊は規律はあっても、兵ひとりひとりの戦闘力は俺たちの部隊には及ばない。
見張り台の仲間が合図を送り、絶妙なタイミングで門が開く。俺たちは駆け込み、全員が町の中へと滑り込んだ。直後に門が閉じられ、外の怒号がかき消される。
「ふぅ……」
部下たちは馬上で息を吐く。誰一人欠けていない……それだけで胸が熱くなった。
とりあえず休憩だ。
本当はこういう斥候部隊が3組はほしい。順番に攪乱を繰り返して足止めするのがベストだ。だが、そんな余裕はない。俺たちだけでやるしかないのだ。ただ、思ったより相手は強くない。あと何回かは時間稼ぎができるだろう。
「おい、お前ら。魔族が攻めてきているだと、どういうことなんだ。隊長をだせ」
後ろから怒鳴る声。
「だから、今対応しています。市民の方は町の北のほうへ避難願います」
市民か。部下が対応する。
「こんなときのために税金をはらっているんだろ。税金泥棒が。おまえらは市民の安全を守る義務があるんだ。貴族の方ばかりを向いてんじゃねえぞ」
確かにその通りだ。だが、その正論はこの国では通用しない。たぶん、ここに貴族がいたら、こいつは斬られているだろう。そういう国なんだ。
「大丈夫です。俺たちは親衛隊や騎士団の本隊が来るまでの時間を稼いでいます。市民の方は安全な町の北側に避難してください」
「今、ヴェルトリックの屋敷に行ってきた。もぬけの殻になっている。やつらは逃げたんだ。騎士団の本部も同じだったようだ」
逃げたのか。市民をおいて。これは詰んだな。
「市民は北門から逃げてくれ。俺たちが時間を稼ぐ」
俺は市民を見て、大きな声でそう言う。
「そんなこと言っても、お前らの責任だろ。騎士団がなんとかしろ」
中央のじじいが適当なことをいう。こいつらは、何もできないくせに人を責めるのだけは上手い。
「死にたくなければ逃げろ! 命があればまたやり直せる」
おれはじじいを睨んで低い声で言う。じじいはひるんで引き下がる。
その時、外から、地を震わすような重い足音が響いてきたのだ。
巨人だ。五人の巨体がこちらへ歩み寄ってくる。
さきほどまでの混乱など、まるでなかったかのように整列を取り戻した魔族の軍勢の中を、堂々と進んでくる。
門の上に立つ兵士たちは顔を青ざめさせ、弓を構えながら震えている。矢を放っても、あの分厚い皮膚を貫けるとは思えない。巨人の足がひとつ動くたび、城壁全体が揺れるような錯覚すら覚える。
「そろそろ出る。
騎士団でも逃げたいやつは逃げろ。
ここからは命がけの仕事となる」
俺がそう言うと、まわりは嘘のように静まりかえるのだった。
「……来るぞ」
俺は剣を握り直した。
さっきの突撃で稼いだ時間など、ほんのわずか。これからが本当の戦いだ。
門を守れるかどうか……いや、どれだけ持ちこたえられるかだ。
俺たちに許された役目はただひとつ。市民が逃げる時間を稼ぐことだ。
「全員、配置につけ!」
俺の声に、兵たちは必死に持ち場へと散っていく。門の上からは火矢が放たれ、魔術師たちは呪文を唱え始める。
もう、巨人は門の手前まで来ていた。
巨人の巨腕が振り上げられ、門を殴る。
次の瞬間、南門の壁が大きく揺れ、石が砕け散った。
戦いの幕が上がったのだった。




