04
だいぶ近づいてきたな。南門の上には色とりどりの旗を掲げている。
こんな張りぼての虚勢で魔族が騙されるとは思えないが……やらないよりはましだ。
門の上には弓兵と魔術師を配置してある。だが、魔術師はわずか五人。
本来ならこういう時こそ必要な戦力だが、希少な魔術師やヒーラーはすべて貴族の隊に優先して配属される。ここに回されたのは、力はあるが性格に難がある者や、落ちこぼれ気味の魔術師ばかりだ。
門の内側では大太鼓を鳴らさせている。ドンドンと腹に響く音が町に広がる。こういうのは派手なほうがいい。少しでも兵や市民に「戦える」と錯覚させられるなら安いものだ。
俺は見張り台に立ち、息を潜めて敵の動きを見つめた。魔王軍は門の前百メートルの地点まで近づき、さらに五十メートルに迫ったところで……ピタリと止まった。やはりか。俺たちの戦力を見極めている。
こちらの旗も太鼓も、上っ面の張りぼてだと気づいているのだろう。ましてや、奴らには鳥人族が混ざっている。上空から覗かれたら一瞬で虚勢がばれる。
魔族の軍勢は五十メートルの地点で足を止めたまま、じっと陣形を保っている。後方では荷車を引かせ、物資を運び込んでいるのが見えた。休憩、か。
休む。整える。それがわかっているだけで、ただの蛮族ではないと分かる。
訓練を積み、規律を守り、兵の体力を温存する。俺が騎士団で叩き込まれた軍の常識を、魔族どもは理解し、実行している。「作戦など立てられぬ野蛮人」……上官たちの言葉はすでに過去のものだ。
とにかく、こちらから仕掛けるわけにはいかない。攻めれば、すぐに虚勢が剥がれ落ちる。俺の役目は敵の初動を見極め、必要なら自ら先陣を切ることだ。
そうして緊張の中で時間が流れる。やがて、魔王軍の中に異様な影が現れた。
……巨人。それも五人。身の丈十メートルはあるか。丸太のような腕をぶん回し、俺たちを見下ろす。
おそらく、まずは巨人に門を叩かせ、そのまま雪崩れ込むつもりだ。俺たちが急ごしらえで修復した門壁など、一撃で木っ端微塵だろう。
その前に倒さなければならない。だが、俺の剣で仕留められるのは一体が限界。五人すべてを倒すのは到底不可能だ。
……貴族たちはまだ来ない。このままでは本当に町が蹂躙される。
そして二時間が経過した。
その時だった。大地を揺るがすような咆哮が空気を裂いた。
「……っ!」
一万の魔族が、一斉に吠える。
地鳴りのような音が胸を震わせ、鼓膜を破りそうになる。
本能が告げる。これは戦の合図だ。
次の瞬間、魔族軍は一斉に進撃を開始した。




