エピローグ02
ここは神界。といっても雲の上で竪琴が鳴っているような場所ではない。
モニターが壁一面を埋め尽くし、赤や青のランプが点滅する。誰かがコーヒーをこぼした紙コップを放置したままの、ありふれたオペレーションセンターである。
そこで、幾多の神たちがあわただしく働いていた。
「で、あの世界……NK5254はどうなってる」
「例のオワコン世界ですか」
端末を操作していた補佐官の神があくびをかみ殺す。
「ああ、人間たちが好き勝手やって収拾がつかなくなっていたところだな」
「あなたが"勇者の洞窟"を実装したんでしたね。最初に辿り着いた存在に勇者認定、チートパワーを付与する……というシンプルなシナリオでしたね」
「そうそう。神ってのは直接手出しできんからな。ルールをつくることはできる」
「で、結果は?」
拡大された映像には、洞窟の最奥で膝をつく三人の冒険者が映し出された。ドミンゴ、ギャラン、ブライト。どれも勇者の器には程遠い顔ぶれだ。
「……こいつらか?ずいぶん柄のわるいやつらだな」
「いえ、もう儀式は発動済みです」
「何? じゃあ勇者は別に?」
補佐官が画面をさらに拡大する。そこに浮かび上がったのは、点々と続く小さな足跡。
「……猫?」
「はい。猫ちゃんが一番に到達しました」
「バカな! あの罠の数々をどうやって……」
「床罠は体重が足りず発動せず。赤外線トラップは猫ちゃんの目に全部見えていた。謎解き扉は……まあ隙間から液体化してすり抜けたようですね」
「……」
「つまり、猫ちゃんが正式に勇者です」
「世界はどうなる?」
「さあ。勇者はひとりだけ、ルール上そう決まっていますし。勇者が複数いると勇者同士が争いますからね」
「……猫が世界を救う? 無理だな」
「でしょうね。でもまあ、我々の責任ではないですし」
「ああ……見なかったことにしておこう。ほら、別件の世界もトラブってる」
神々はNK5254のウィンドウを無言で閉じ、新しいアラート音に慌ただしく移動していった。
こうして、人間と魔族の運命は、ディスプレイの片隅で猫に委ねられたまま放置されたのだった。




