魔王ミレーネ・ヴァルガス02
このままではベルダンが人間を滅ぼしてしまうだろう。王都を落としたらもう後戻りはできない。人間と魔族は、憎しみに縛られて互いを殺し続けるしかなくなる。今の人間は弱すぎる。いや、弱いというより、上の奴らが腐りきっている。誰も国のために、人のために戦う気概はない……だから、四天王は王都を焼き尽くすだろう。人間に勇者でもいれば違うのだろうが。
「どうしたにゃん?」
ぽつりと聞こえた小さな声に、わたしは我に返った。誰だろう……見回すと、目の前に金色のちゃとら猫がちょこんと座って、こちらを見上げている。毛並みが光り、瞳は丸く輝いている。ふざけているのか、それとも本気なのか、その顔はどちらともつかない。
「かわいいだにゃん。勇者だにゃん」
「勇者?おまえが勇者?」
「そうにゃん。勇者にゃん」
猫は胸を張ってどや顔を作る。子供じみているのに、どこか憎めない。わたしは苦笑まじりに相手をすることにした。猫ちゃんが言う言葉は単純で、それでいて不思議と説得力がある。
「で、勇者が何の用だ?」
「この戦争を終わらせるにゃん。おまえの力が必要にゃん」
「どういうことだ?」
「おまえは魔王にゃん。だから戦争を止められるにゃん。魔族を止められるにゃん」
「しかし、わたしはここに閉じ込められている。おまえと一緒に行くことはできない。今のわたしには戦争を止めることはできないのだ」
そう言うと、猫はすぐさま首をかしげる。
「大丈夫にゃん。ぼくの下僕になったら、ここから出られるにゃん」
「下僕?」
そう説明すると、まるでそれが当然であるかのように続きを話した。
「もう四人の仲間がいるにゃん。おまえが最後の仲間にゃん」
この純真な提案が、どこか救いのように思えたのだ。猫の言葉は、信じられそうな重みがあった。いずれにせよ、このままというわけにはいかない。
「わかった。おまえを信じてみよう。わたしはミレーネ・ヴァルガスだ。よろしくたのむ」
猫は後ろ脚で立って、わたしの前で前足を動かす。そのとき、黒い王冠が忽然と現れ、ふわりとわたしの頭上に乗る。
その瞬間、体の芯に電流が走るように力が戻ってきた。血が沸き、筋肉が目を覚ます。手枷も足枷も、音を立てて崩れ落ちた。牢の扉が外側へ吹き飛び、冷たい空気が流れ込む。わたしは立ち上がった。
「じゃあ、みんなのところに行くにゃん」
猫はぴんと尻尾を立て、軽やかに歩き出す。わたしはその後ろへ続いた。




