諮問機関審問官暗黒のベルア
わたしは諮問機関の審問官ベルア。
暗黒のベルア……そう呼ばれる、恐れられた追跡者だ。わたしが狩った獲物で、取り逃がしたのはただ一人。勇者パーティの剣士、レオン。
あのとき、全力でぶつかり合った。どちらも譲らず、決着はつかなかった。 そして勇者と名乗る猫が、わたしにかけられていた呪いを解いた。
審問官はみな呪いをかけられている。国の裏を担う部署ゆえ、忠誠心など信じてもらえないのだ。裏切りを封じるため、逃亡を防ぐため。わたしも例外ではなく、鎖に繋がれていた。だが、猫はその鎖をあっさりと断ち切った。高位の聖職者でも難しいはずの解呪を……なんでもないことのように軽々と。
それで、わたしはいつでも裏切れる身になった。けれど、わたしには考えていることがある。それには、拷問機関というのは都合がいい。
わたしは闘技場で生まれた。父も母も戦闘奴隷。強さだけを求められ、優秀な血を残すために交わされ、そして生まれたのがわたし。
競走馬と同じだ。いや、それ以下だったかもしれない。物心つくより前に剣を握らされ、血を流し、観衆の喝采を浴びて育った。
父は南方から連れてこられた奴隷だった。誇り高いトーマ族の戦士だった。
だが、呪いをかけられたわたしは貴族に逆らえば呪いが疼く。逃げ場はなく、ただ戦い続け、いつしか闘技場の頂点……チャンピオンと呼ばれるようになった。
その頃には、人間にはもう敵はいなかった。次に差し出された相手は、魔族や獣人だった。彼らとの闘いは殺し合いだった。彼らにはルールなんて理解できなかったからだ。
その中に……エルガオがいた。獅子のたてがみを持つ、誇り高い戦士。彼は獣人でありながら、闘技という"形"を理解していた。わたしは久しぶりに、「試合」をすることができた。彼との戦いは激しく、観客は狂喜した。わたしたち自身も……魂を震わせた。
試合の合間、エルガオは小さく言った。
「ベルアよ。俺たちと一緒に逃げ出さないか」
本来なら告げ口すべき言葉。わたしはただ首を横に振った。人間には呪いがある。逃げられはしない。エルガオは、それ以上は言わなかった。ただ、残念そうな目をした。
やがて、奴らは脱走を決行した。試合後に枷をはめられる瞬間を狙い、監守を叩き伏せたのだ。そのとき、わたしは偶然、控室から魔導士の動きを目にした。エルガオを焼き払うつもりだ、と直感した。
気づけば拳を振るっていた。魔導士の腹に一撃。炎は放たれず、エルガオたちは自由を手に入れた。
だがその代償は大きかった。多くの監守や闘技場の職員が血に沈み、そして、わたしもまた裏切りの嫌疑を受けた。拷問の果てに……光を失った。
それでも、わたしは闇を得た。闇をまとい、闇を読むことで世界を知り、戦えるようになった。もう闘技者には戻れなかった。だから自ら望んで諮問機関に身を投じた




