↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者かわいい ~知らんけど、たぶん猫ちゃんがオワコン世界を救うお話~  作者: PYON
第四章 魔王ミレーネ・ヴァルガス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/58

03

 二人目の新四天王……道化師ロットは、シャーリーの機転で退けられた。もし、あの場で俺が相手していたら……正直、やばかったかもしれない。改めて思う。シャーリーは冷静で、頼りになる。あの仮面の下の表情は見えないが、たしかな強さがある。

 だが、次は俺の番だ。俺は剣を握り直す。今まで磨いてきた剣技に、自由度を増した「新しい猫ちゃん剣法」。どんな相手でも、どんな剣でも受けて返せる。そう信じている。今度こそ、見せてやる。

 

 廊下を進むと、また分厚い扉が待ち構えていた。アカシックレコードが告げる。「中に強敵がいる」と。その言葉に緊張が走る。俺は深呼吸し、扉を押し開いた。

 中央に立っていたのは、巨体の獣人だった。黄金に輝くたてがみ、鋼鉄のように盛り上がった筋肉。ただ立っているだけで空気を圧する……まさしく百獣の王。こいつは……強い。

 

「人間か」

 低い声が響いた。胸の奥まで震わせるような声だ。

「ああ。勇者の仲間、剣士レオンだ」

「勇者の仲間……なるほど。ここまで来たということは、イフリートもロットも敗れたか」

「ああ、俺たちで倒してきた」

「そうか。だが、あいつらは"お笑い枠"だ。四天王の面汚しよ」

 獰猛な笑みが牙を覗かせる。なるほど……こっちの陣営も、じじいみたいな"ネタキャラ"を混ぜてるわけか。だが、目の前の獣人は……絶対に違う。本物だ。

「俺の名はエルガオ。獅子の獣人にして、百獣の王を名乗る者だ。……さあ、かかってこい」

 エルガオが一歩踏み込むだけで、床石が割れ、空気が震える。近づいただけで、圧倒的な力を感じる。その巨体は俺の倍。腕一本で俺の身体ごと剣を砕けそうだ。

 だが、リーチはこっちが上。俺の剣が届けば勝機はある。そう信じて、一歩前に出る。

 エルガオが身構える。俺も剣を抜き、隙をうかがった。次の瞬間、獅子が動く。

「……来い!」

 獣の気配に反応し、俺は剣を振る。手応え……いや、違う。ガキィン!と嫌な音。まるで岩を斬ったような感触。剣は弾かれ、痺れが腕を襲う。

 次の瞬間、太い腕が迫る。咄嗟に受け止めようとしたが、力が桁違いだ。

 ドゴォッ! 拳の衝撃が全身を叩きつけ、俺は後ろへ吹っ飛ぶ。

 床を転がり、必死に受け身を取る。立ち上がったときには胸が焼けるように痛んでいた。あれをまともに食らっていたら、命はなかった。

 こいつ……ただの獣人じゃない。纏っているのは……地の魔力。その身体は岩のように硬く、勇者の剣でなければ砕かれていた。

「ククク……どうした。もう終わりか?」

 巨体がゆっくり迫ってくる。金色のたてがみが光を反射し、まるで王冠のように輝いて見えた。これが百獣のエルガオ。圧倒的な力の化身。

 だが、俺は退かない。心臓が高鳴り、身体が熱くなる。こいつは強い。だからこそ、俺が倒さなければならない。

「……上等だ」

 俺は剣を構え直す。

「新しい猫ちゃん剣法……見せてやる!」

 

「ちょっと待て!」

 背後から絞り出すような低い声が響いた。反射的に振り返ると、薄闇の中から人影が浮かび上がる。肩に巨大な大剣を担ぎ、闇の気配を纏った男……暗黒のベルアだ。入れ墨だらけの頭部は、あの時見た姿と同じ。あのとき、俺は勝ちきれなかった。いや、猫ちゃんの助けがなければ完敗していただろう。

 一瞬、胸がざわつく。敵の増援か……そんな最悪の想像が頭をよぎる。エルガオとベルア、二体同時はさすがにきつい。

「レオン、代われ。こいつとは因縁があってな」

 ベルアはそう言って肩の剣を下ろした。

「なぜ、俺たちに加勢するんだ?」

「この前、猫ちゃんに助けられた。俺は誇り高き南の国の部族……トーマの一族。借りた恩は必ず返す」

「俺たちは勇者だ。場合によっては王国を敵に回すかもしれないぞ」

「立場の問題だ。俺は王を守る者だ。だが、借りは借りだ。それに……今はおまえたちに勝ってもらったほうが都合がいい」

 エルガオが鼻を鳴らした。その視線がベルアに向けられる。

「暗黒のベルア……久しぶりだな」

「おお、懐かしいな。無事逃げおおせたようだな」

「簡単なことだ。俺が人間ごときに遅れを取るはずがない。あの時は逃げるためにおとなしくしていただけだ」

「そうか。だが決着はつかなかったな。……やろうぜ、闘技場の続きを」

「ふっ、おまえとの試合は唯一楽しめた闘いだった。悪くない」

 エルガオの顔に、金色のたてがみがゆらりと波打つ。

「では決着をつけよう」

そう呟くと、二人は同時に構えた。

 

 床石が軋み、空気が震える。闇と大地がぶつかり合うような気配が、廊下を満たしていく。互いに一歩、二歩。距離を詰める足取りには、かつて拳を交えた者同士にしかわからぬ"読み"があった。

 そして、衝突。

 ガツン、と鈍い衝撃音。闇の大剣と岩の拳がぶつかり、俺の胸の奥まで響いてくる。

 ベルアは両腕で大剣を振り絞る。刃をまとわる闇は軌跡を黒く裂き、空気を斬り裂くたび影の残光を残す。エルガオは筋骨ごと受け止め、その反動で地の魔力を拳に宿し叩きつける。拳が床を揺らし、石畳に亀裂が走り、砂塵が舞い上がる。

 互いの攻撃は"質"が違う。ベルアの闇は鋭い刃。対するエルガオの地は、叩きつけるほどに質量を増す。ベルアの刃が食い込んでも、獣人の肉体は岩のごとき硬さで受け止める。逆にエルガオの拳が当たれば、ベルアは闇で衝撃を分散させ、致命傷を避ける。

 俺は息を呑みながら観察する。攻撃のリズム。呼吸。わずかな癖。……エルガオは踏み込みに全体重を乗せる。ベルアはその瞬間を狙い、刃の軌道を捻って急所を突く。今のところ、互いに一歩も譲らない。

 その時、ベルアの体勢がわずかに崩れた。やはり、力比べでは不利か。隙を突き、エルガオが腕を変化させる。岩……いや、黒鉄のような質感に変わった腕を振り回した。

 ベルアは咄嗟に大剣で受け止める。金属と金属が軋み、火花が散った。エルガオは拳を押し込み、二人の顔が至近距離で睨み合う。

 その直後、エルガオは腕を振り払って距離を取った。

「……おまえ、その目。見えていないのか」

「ああ、光を失って久しい。だが……エルガオ、それがお前に何の関係がある」

 ベルアはそう言ってニヤリと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。