↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者かわいい ~知らんけど、たぶん猫ちゃんがオワコン世界を救うお話~  作者: PYON
第四章 魔王ミレーネ・ヴァルガス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/58

仮面魔女シャーリー・メルク01

 手を上げたとき、胸の奥で冷たい予感がする。デスゲーム──そんな命題だろう。味方を見渡す。レオンは頭脳戦は苦手そうだ。アントンさんは頼りにならないし、王女はアカシックが使えない。猫ちゃんはどこかへ行ってしまった。残るのはわたしだけだ。

「じゃあ、弱ければ弱いほど強いものってなんだ」

 なぞなぞか。瞬間、頭の歯車が回る。だが、答えはすぐに出ない。ロットの笑いは広い空間に波紋を作る──余裕というよりは罠だ。

「それはぼくだよ。それでは始めようか」

 ロットはふいに立ち上がり、楽しげに拍手を打った。舞台の照明が変わるように、空間自体が少し歪む。周囲の空気が重くなる。観客の幻影がざわめき、見えない視線がこちらを測る。

「どんなゲームなの?」

「簡単。戦闘ゲーム。ぼくを倒したら、この部屋を通してあげるよ」

「そう、じゃあ、遠慮なくいくわ。アイスジャベリン!」

 杖を振ると、白い息が放たれて、魔力が槍の形で濃縮される。氷の槍がわたしの前に迸り、空気を切り裂いた──と、同時にロットの方からも、氷の槍が飛んできた。あれは鏡写しじゃない。わたしの魔法が完璧に写し取られて、逆向きに返されてくる。

 咄嗟に杖で受け止める。金属と氷が擦れる音が耳元で鳴り、腕に衝撃が走った。だが致命傷は避けた。ロットはにんまりと笑う。

「そうそう、言うのを忘れてた。この部屋には三つのルールがあるんだ」

 ロットの声は遠く、サーカスの呼び声のように歪む。

「ひとつ、攻撃魔法以外の魔法は使えない。ふたつ、攻撃をしたら全部跳ね返ってくる。みっつ、30秒に1回は攻撃をしないとならない。これだけだよ」

 ルールはシンプルで、致命的だ。攻撃すれば必ず返る──攻撃魔法以外の魔法が封じられている以上、回避や補助は使えない。さらに、時間の制約で「間」が許されない。短い猶予の中で論理をひもとき、解を見つけるしかない。

 ロットは短剣を手に取り、こちらへ駆けてきた。素人の動き。そしてその攻撃はロットに返る。その弱弱しい攻撃はほぼダメージを与えない。

「やっぱり、弱いな。ぼくは魔族で最弱って呼ばれてるんだ。ゴブリンより弱いって。魔族の中で役立たずでね。でもこの空間魔法を手に入れてからは最強なんだよ。いじめたやつら、みんな自滅してくれた。傑作だったよ」

 嫌な笑いだ。悪趣味で、どうしようもなく屈折している。だが、ただ嘆くだけでは突破できない。考えろ。何か突破口があるはずだ。でも時間は迫ってくる。とりあえず行動しないと。

 

「もし手加減したらどうなるの?」

「攻撃しなかったときと同じだよ。罰として……大きな隕石が落ちてくるんだ!」

「……そう。じゃあ、しかたないわね」

 わたしは杖を思いっきり振りかぶり、ロットの頭をカーン!と殴った。

 ゴンッという音が響く。同時に、同じ衝撃がわたしの頭にも返ってきて、ふらりとよろめく。

「い、痛っ……!」

「アハハ! 殴るなんて!魔導士だから攻撃力は弱いか。でもぼくはもっと弱いんだ。おねえさんのほうがダメージは上」

 ロットはケラケラ笑いながら短剣をチクッと振るう。反射して自分の腕に傷を負っているが、ダメージは小さい。

「次は君だよ。さあ、また殴るのかな?」

 「……なるほどね。ほんとに弱い。しかも運動神経もゼロ、体幹もガタガタ。それが武器になるなんてね」

 わたしは息を整え、杖を構えた。

「じゃあ……こういうのはどう?」

「アイスワールド!」

 氷結魔法最強の範囲攻撃だ。半径5メートルくらいの範囲を氷結させる。凍てつく嵐がわたしを覆い、吹雪がわたしをも巻き込む。肌が切り裂かれるような痛み。それでも、氷の魔法には耐性があるわたしならギリギリ耐えられる。……だが二度目は無理だ。

「ハハハ! 自分の魔法でフラフラじゃないか!」

 ロットは狂ったように笑う。

「いいね、その絶望の目! ぼくをいじめた連中も、みんなそんな目で死んでいったんだ!」

 

 わたしは冷静に、淡々と数字を数え始める。

「十五……十四……十三……」

「な、なに? ぼくが攻撃を忘れるとでも思ってるの? そんなこと……あるわけないじゃん!」

 ロットはナイフを構えてこちらへ突進してきた。

 その瞬間、わたしはにやりと笑った。

「……はやく攻撃したほうがいいよ。10・9」

 カウントダウンに慌てたのか、ナイフを持ってこっちに走ってくる。

 ロットの足元がツルリと滑る。さっきの吹雪で床は一面のスケートリンク。ロットは見事にすっ転び、そのまま氷の上を滑走していった。

「うわああっ!? ま、待って止まらない! ちょっ、助けて!」

「……五。四。三」

 わたしは無表情でカウントを続ける。

 必死に立ち上がろうとするロット。だが滑って尻もち、また立ち上がろうとして転ぶ。ドタバタすればするほど滑り続ける。

「二。……一」

「やだやだやだやだ! このままじゃ……!」

「ゼロ」

 天井が光った。巨大な隕石が轟音と共に落下し、ロットを押しつぶす。

 最後に道化師の悲鳴と、派手な爆煙が部屋を包み込んだ。

 わたしは杖を肩に担ぎ、ため息をつく。

「……ほんと、面倒くさい相手だったわね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。