01
俺たちはついに魔族の地へと足を踏み入れた。
それにしても、王女のアカシックレコードは本当にすごい。初めて来る場所なのに、彼女の目の前には詳細な地図が浮かんで見えるらしい。しかも魔族の動きまで把握できるから、危険を避けて進めるのだ。森の中でも道に迷う心配がない。完全なナビゲーション機能つき。これ以上頼りになる力はないだろう。
一方で、じじいのわけのわからない"ネタ能力"はやっぱり使えない。……が、料理だけはしてくれる。シャーリーが味つけを担当するおかげで、なんとか食えるものになっている。まあ、冒険中のごはんとしては上出来だ。
この調子なら、あと二日で魔王城にたどり着ける計算だ。もちろんこれもアカシックレコードのおかげ。
道中、俺は剣の修行を欠かさない。猫ちゃんのしなやかな動きを取り入れようと試みているのだ。前の戦いではミノタウロスに手こずった。あいつは四天王ですらなかったのに。これから挑むのは魔王本人。今のままでは勝てない。だから少しでも強くならなきゃいけない。
シャーリーも同じだ。猫ちゃんの下僕契約で得た力をいろいろ試しながら、真剣に鍛えている。
じじいはというと、フライパンやお玉を振り回しているが、どう見ても遊んでいるようにしか見えない。現に猫ちゃんがお玉にじゃれついている始末だ。
でも俺たちは、やれることをやっている。それぞれの方法で、最終決戦に備えて。
「もし私たちが負けたら、この国は終わりです」
王女の言葉は重かった。今の王国軍では魔王軍に勝てない。兵の練度も武器の性能も悪くはないが、肝心の指揮官たちが駄目なのだ。貴族は後ろから口出しするばかりで、前線の状況に対応できる者がいない。弱い者いじめには長けていても、本当に国を守る覚悟を持つ者はいない──そう王女は冷静に分析していた。
しかも、四天王の一隊がすでに王都へ向かっているという。敵も総力戦を狙っている。
魔王は武力だけでなく、策をめぐらす頭脳も持っているのだ。王女のアカシックレコードをもってしても、ようやく互角。そんな手ごわい相手だ。
と、その時。
猫ちゃんが耳をぴんと立て、鼻をひくひく動かした。
「……魔王城でも、なにか起きてるにゃん」
その仕草はあまりに自然で、あまりにかわいらしかった。アカシックレコードよりも早く、猫ちゃんは何かを感じ取っているのだった。




