仮面魔女シャーリー・メルク05
わたしたちは作戦会議室に戻る。さっきまで戦場にいたのが嘘みたいに、部屋の中は静かだった。
「ありがとうございました。おかげさまで魔王軍を退けることができました」
セレス王女が深々と頭を下げる。
「いや……正直、引いてくれて助かっただけだ。次はどうなるかわからん」
レオンが答える。
わたしも同感だった。勝ったというより、延命しただけ。次は負ける可能性だって高い。もっと力を上げないといけない。
「だから、みなさんには一度王都に来てほしいんです」
セレス王女は真剣な顔で続ける。
「父に会って、あなたたちのことを認めてもらうんです。勇者という存在を」
「そんなこと、できるの?」
「はい。ぼくがあなたたちの仲間になります。ぼくが勇者一行となったら、父も無下にはできないでしょう」
「じゃあ決まりにゃん」
いきなり猫ちゃんが割り込む。
後ろ足で立ち上がると、前足をひょいひょい動かす。
すると、空中に光の球が現れ、セレス王女に降り注いだ。
王女の前に光る本が現れる。
セレス王女はためらいもなくそれを手に取る。その瞬間、勇者一行の仲間になる儀式が完了した。
「これでセレスも下僕にゃん」
「ちょっと!セレス様は王女よ」
思わず口を挟んだが……
「いいんです。これでみなさんと同じです。これからよろしくお願いします。ぼくのことはセレスと呼んでください」
王女は柔らかく微笑んで、そう言った。
……ほんとに下僕でいいらしい。
まあ、猫ちゃんのやることだし。わたしは深いため息をついて肩をすくめた。
そのとき、ドアが開く。ルシアンが胸を張って入ってきた。
「みなさん。ありがとうございます。おかげで我がランガスの砦は守られました。我々の勝利です!」
……は?さっき逃げようとしてたやつが、なに勝利宣言してんの。
わたしたちは冷めた目でルシアンを見つめるのだった。
「祝勝会の用意をしろ!盛大にやりましょう。英雄たちを称えるのです!」
ルシアンが浮かれて叫ぶ。
はぁ?なにが祝勝会なんだ?戦場で真っ先に逃げたのはどこのどいつだ。わたしは呆れ返る。
「ルシアンさま、少しお待ちください」
セレス王女の声は冷たかった。
「あ、王女さまも大活躍だったと聞きました!さすが王女さま、幾多の軍略を操る戦の女神!」
ルシアンは必死に媚びを売る。
自分の立場、まだわかってないらしい。
「ルシアンさまにはお話があります」
「なんでしょうか」
とぼけた顔。
「わたしたちを見捨てて逃げましたよね」
「い、いえ!私は王都に報告に行こうと……」
「王女を置いて逃げる。これが何を意味するか分かりますか?」
「ち、違います!私はなにも悪いことは……」
「王に対する反逆です」
「なっ……!」
ルシアンの顔から血の気が引く。
「いいわけは諮問機関でやってください。わたしたちは忙しいのです。……この裏切者を捕らえなさい」
セレス王女の一声で、近衛兵たちがルシアンの両腕を押さえ込む。
「待ってください!私は悪くない!許してください!」
ルシアンは涙声で必死に叫ぶ。その姿に、わたしはゆっくり仮面を外して近づいた。ルシアンの目が驚愕で見開かれる。
「おまえは……シャーリー……!顔は……治ったのか……頼む、王女に言ってくれ!おまえからなら……!」
「それは無理ね」
わたしは冷たく微笑む。
「わたし、元・諮問機関の人間だから。あそこがどういう場所か、よく知っているのよ」
「ひっ……」
「諮問機関……いえ、拷問機関の先輩たちにはね。あなたみたいな"顔だけ綺麗な裏切り者"をいたぶるのが大好きな変態が山ほどいるの。彼らの楽しみを奪うわけにはいかないでしょう?」
ルシアンの顔が恐怖に歪み、膝が笑っている。
「せいぜい、長く"可愛がって"もらってね。何を白状しても、簡単には終わらせてもらえないわ。拷問機関って、そういうところだから」
「や、やめ……助けてくれ……!」
悲鳴は虚しく、近衛兵に引きずられていく。英雄気取りだった男の末路は、あまりにも惨めだった。
……ざまあみろ。




