アルゴス王国第五王女セレス06
なんとか作戦は成功した。ミノタウロスは氷の中で砕け散り、動かなくなった。けれど……ダークエルフ、四天王バーミラだけは生き残った。しかも、まだ戦意を失っていない。
レオンもシャーリーも、もう限界だ。立っているのが不思議なくらい、力を使い果たしている.
……ここまでか。そう思った、そのとき。
猫ちゃんが、アカシックレコードに飛び乗った。
「え?」
思わず声が漏れる。だって、猫ちゃんにこれが見えているなんて……。わたしにしか扱えないはずの力なのに。
猫ちゃんは興味津々といった様子で、クンクンと匂いを嗅ぎ、次の瞬間……ふわりと前足を伸ばした。その肉球が、レコードに吸い込まれていく。
「なっ……どうして!?」
わたしでさえ直接触れることができない。そんなことできたら、戦局はどうにでもなる。神の魔法になってしまう。なのに猫ちゃんは興味津々で手を入れていく。
バーミラがこちらを見た。ぎょっとした表情になり、猫ちゃんを指さして叫ぶ。何か呪文のような言葉。ニャルラトテップ。
そして……そのまま踵を返し、逃げていった。
恐れたんだ。猫ちゃんを。何かと勘違いして。
「……ありがとう、猫ちゃん」
作戦は確かに機能した。でも最後に敵を退けたのは、間違いなく猫ちゃんのいたずらだった。
すると猫ちゃんは、興味を失ったように肉球をひっこめ、何事もなかったかのようにわたしの膝へひょいっと戻ってきた。
「さすが猫ちゃんね」
「え? ただ、小さなものが動いてたから触ろうとしただけにゃん」
そ、そういうこと。深淵を動かす大きな力も、猫にとってはただの遊びだったの?
でも、助かったのは確かだ。
レオンとシャーリーが戻ってくる。勝利の顔じゃない。安堵と緊張と、そして覚悟。
わかっている。次もまたバーミラを退けられるとは限らない。だからこそ……アカシックレコードを、本当に使いこなさなければならない。
そして王都へ戻らなければ。魔王軍は将軍たちが言うような蛮族の群れなんかじゃない。組織だった、理知的な軍勢。このままではアルゴス王国は飲み込まれる。
勇者レオン、魔導師シャーリー、そして……猫ちゃん。みんなを伴い、父王に報告しなければ。勇者を王国の戦力として認めてもらうのだ。
それが、わたしたち人間に残された唯一の道。
……アルゴス王国を存続させるために。




