05
「もう遊びはやめ。お前らを舐めていたわ。人間にこんなやつらがいるなんてね」
バーミラの瞳がぎらりと光る。杖を構え、殺気をあらわにして俺を睨みつける。とにかく、シャーリーと力を合わせて、こいつだけは。
「本気で相手をしてあげるわ」
雷鳴が轟き、空気が震える。
「レオン、わたしの後ろに来て! 氷の壁で防ぐ!」
シャーリーの声に従って後ろへ下がろうとした、そのとき。
バーミラの動きがぴたりと止まった。鋭い目で俺たちの背後を見つめている。
「……あれは、なんだ?」
嫌な予感がして俺も振り返る。
……そこには、とんでもない"何か"が天から降りてきていた。
もふもふの茶色い毛に覆われた巨大な塔。
いや、塔じゃない。まだ地面についていない。下の方には、丸くてピンクで……なんだかやわらかそうな肉球が、ぷにぷにと並んでいた。
……待てよ。見覚えあるぞ、このフォルム。毛、肉球、爪、あのバカでかいシルエット。
「……おいおい。あれ、猫ちゃんのおててだろ」
顔を上げる。
……そこには、丸い瞳が俺たちをのぞき込んでいた。でかすぎる。地平線に月が二つ浮かんだみたいなスケール感。
バーミラの顔が青ざめる。
「な、なんだこれは……! お前ら、人間が、邪神を……? ニャル……ラト……いや、まさかニャルラトテップか!?」
勝手に誤解してくれている。いや違う。ちがうぞ。猫なんだよ。ただの。
だが四天王は一歩退き、歯を食いしばって言った。
「……ただ、今になって出してきたということは、お前たちも制御できないのだな。わかった。今回は引こう。だが忘れるな……次は最初から全力でお前たちを潰す!」
そう言い残し、バーミラは魔王軍を率いて撤退していった。
……残された俺たちは顔を見合わせ、しばし沈黙する。
そして、上空の巨大な肉球が「どーん」と地面に押しつけられ、土煙が舞い上がる。
「……いや、ほんと。なんで戦争が猫のいたずらで終わるんだよ」
俺は天を仰ぎ、思わずため息を漏らしたのだった。




