仮面魔女シャーリー・メルク03
今度はわたしのターン。まだ切り札は見せない。氷の槍で十分だ。
「アイスジャベリン!」
杖から放たれた氷槍は、いつもより数も速度も桁違いだった。十本の矢が閃光のごとく空を裂き、バーミラへ殺到する。わたし自身、目を疑う。これは……勇者の加護? 猫ちゃんの魔法?さっきのがんばれはただの激励じゃなかったの?
驚いたのはバーミラも同じだった。闇の盾を張り、氷槍を受け止めながら目を見開く。
「……人間にしては、やるじゃない」
その口調に焦りはない。むしろ愉しげに微笑んでいる。わたしの心臓が嫌な音を立てた。
雷と闇、氷。わたしたちの魔法は互いに撃ち合い、ぶつかり合い、砕け散る。互角……そう思った。
魔力勝負になれば、勝ち目はある。わたしはそう信じかけていた。だが。
バーミラの視線がふいに逸れる。まるで、わたしとの戦いを無視するかのように。
「ミノス、大丈夫か?」
雷の咆哮が響く戦場で、彼女は悠々と仲間の心配を口にした。わたしの氷槍はその隙を狙って飛ぶ。しかし、バーミラは片手間で闇の盾を張り、防いでみせた。余裕。……わたしなんて眼中にない。
ミノタウロスは血にまみれ、満身創痍だった。その巨体を見やり、バーミラはあっさりと杖を掲げる。
「わかった。……立て」
黒い闇が降り注ぎ、ミノタウロスを包む。次の瞬間、裂けた肉がふさがり、滴る血が止まり、あれほど削ってきた傷が……消えた。
「……っ!」
喉の奥から声にならない悲鳴が漏れる。今までのレオンの必死の戦いが、すべて無駄に。わたしの魔力は、すでに底を見せ始めているのに。
互角? 違う。わたしが勝手にそう思っていただけ。彼女は本気すら出していなかった。ただ、弄ばれていただけなんだ。心が折れそうになる。悔しさで胸が焼ける。どうして、わたしは……こんなに無力なんだろう。
それでも、膝を折るわけにはいかない。絶望を飲み込んで、わたしは杖を握り直す。唇を噛みしめ、まだ続く雷と闇の奔流に、氷の壁を展開するのだった。




