仮面魔女シャーリー・メルク01
ルシアンはレオンと握手を交わす。作り笑いを浮かべながら、あの頃と同じように爽やかさを装っていた。でも、もう心は微動だにしない。全然ときめかない。胸がざらつくだけだ。
あの頃のわたしは、この笑顔に騙されていたのか。いや、騙されたいと思っていたのかもしれない。目を細めてこちらを見てくる視線は、やっぱり薄汚い。身体を値踏みされるような、ぞわりとした感覚。
「あなたは?」
「仮面魔女と呼ばれているわ」
「そうですか。それにしても美しい……。仮面を取っていただけませんか」
その声色。人の心を試すような、底の浅い甘さ。ほんとうに、昔はこんな台詞に頬を染めていたのか。思い出すたびに、自分が情けなくなる。
「それは遠慮しておきます。この仮面はわたしの心を隠しているの」
「そう、ではあなたはわたしの護衛として王都までご一緒願えませんか。わたしはこれから、王都に現状を報告しに行くのです」
やっぱり逃げるのね。王女を置いて、兵を見捨てて。あのときと同じ……責任から逃げる背中。
「わたしたちは三人でひとつのグループ。……いいえ、四人ね」
机の上で、猫が「にゃ」と鳴く。かわいいの頭をなでる王女を横目に、わたしは冷ややかに言い放った。
「残念です。……でも無理はなさらず」
軽薄にウィンクしてみせるルシアン。本当ならその眼球を氷の槍で貫いてやりたい。
「ええ、ありがとうございます」
唇だけで笑って返す。心の奥では……いつか必ず殺す、と刻む。
ルシアンは本来、才能のある男だった。剣の腕も、魔法の素養も、人を惹きつける力も。だからこそ、余計に腹立たしい。努力すれば強くなれたはずなのに、怠け、甘え、女にすがりついて生きている。わたしが惹かれたのは、きっと「可能性」だけだったのだ。
「では、わたしは準備がありますので……。一刻を争うのです」
アントンさんへの挨拶すらなく、背を向けるルシアン。その背中を見ながら、氷のように冷たい怒りが胸に沈んでいく。
レオンが王女に戦況を尋ねていた。わたしも机に歩み寄り、王女のそばで耳を澄ませる。今は、この場に残った者だけが頼りなのだから。




