アルゴス王国第五王女セレス04
「兵士に大きな被害が出ているみたいじゃないか」
「どうするんだ」
「次の手は、さっき"ぼくの力があれば大丈夫"とか言ってたよな」
貴族たちは戦況を知り、ぼくに詰め寄ってくる。でも、もう……打つ手なんてない。
魔力は枯れた。いや、もし残っていたとしても、あの四天王には勝てない。こちらには飛車も角もない。棋士なら負けを認める局面。それに、これはゲームじゃない。
「みんなを……逃がして。町の人たちも、残った兵士も……」
「なにをいまさら言い出すんですか。そんなことは不可能です」
「全部、あなたの責任ですよ。わたしたちは戦況を維持していたのに、あなたが出しゃばって混乱させたんだ!」
ルシアンの声が頭に響く。責任を押し付けられても、もう反論する気力すら湧かなかった。本当に、どうでもよかった。
「そうだ、私は王都に急報しなければならない!」
ルシアンは勝ち誇ったように叫ぶ。
「兵たちに足止めをさせろ! 私はすぐに出発する! お前たちは護衛につけ!」
……好きにすればいい。どうせ、王国は魔王軍には勝てない。ぼくは机に突っ伏しかけていた。
そのときだった。
ドアが勢いよく開き、金色に輝く毛並みが滑り込んできた。ひらり、と机に飛び乗った小さな影。
「……猫ちゃん?」
金色の猫ちゃんはまっすぐぼくの顔を覗き込み、柔らかく頬をすり寄せてきた。その毛並みの温かさに、不思議と力が戻ってくる。
「勇者魔法、がんばれにゃん」
「……え?」
その子は小さな声で、はっきりそう言った。ぼくは思わず撫でてしまう。
「ぼくは勇者、かわいいだにゃん」
その言葉に、全身に電流が走った。勇者?この子が……?
状況を呑み込めずにいると、続けざまに背後から聞こえた。
「それで、戦況はどうなってるんだ。すぐにでも行けるぜ」
若い戦士が、気安く声をかけてきた。
その瞬間、アカシックレコードの盤面が光を放つ。新しい駒が置かれる。空白だった場所に、鮮やかにピースがはまる。
詰みだと思っていた盤面に、思いもしなかった"大駒"が現れたのだ。
これなら勝てる。ぼくは顔を上げる。まだ戦える。いや、勝利の未来が見える。
絶望に沈んでいた胸に、熱い炎が蘇るのを感じながら……ぼくは戦略を練り直すのだった。




