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勇者かわいい ~知らんけど、たぶん猫ちゃんがオワコン世界を救うお話~  作者: PYON
第三章 アルゴス王国第五王女セレス

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ランガス騎馬隊隊長バーン

 あの王女……なにもわかっていない。俺たちはアルゴス王国の騎士だ。魔族ごときに遅れをとると思っているのか。いま砦の前に配置しているのは、錬度の低い平民の歩兵たち。押されて当然だ。

 だが俺たちランガス騎士団は違う。辺境で魔族を牽制し、魔獣の退治を繰り返してきた精鋭だ。二百騎の騎馬隊……その突撃力は砦最大の戦力。俺たちが出れば、戦況はひっくり返る。

「王女様は本を読むだけの素人。作戦?戦略? 魔族相手にそんなもの必要あるか」

 俺は部下たちの前で笑う。

「戦場は力だ!馬の蹄と槍の穂先こそが真実だ!」

 鎧を身につけ、馬に跨がると、胸が高鳴る。これから英雄譚の一幕が始まるのだ。俺が指揮する突撃で魔族軍は総崩れになる。歴史に刻まれる勝利を手にするのは俺だ。

「門を開けろ!」

 号令とともに砦の門が開かれる。鬨の声を上げ、俺たちは飛び出した。中央にはコボルトとゴブリンの軍。最弱の雑兵だ。

「ははっ、やはりな!」

 馬を駆け、槍を突き出す。小鬼どもは次々と倒れ、残りは悲鳴を上げて逃げ出す。部下たちも追撃し、戦場は混乱に包まれた。

「見ろ! 奴らは恐れて逃げ出す! 我らの勝利だ!」

 俺は突き刺したゴブリンの死骸を掲げ、勝ち誇った笑みを浮かべる。部下たちの士気も最高潮に達していた。

「追え! 一匹残らず狩り尽くせ!」

 獲物を狩る狩人の気分だった。これは戦争ではない。狩りだ。

 

 そのときだった。頭上から声が響く。

「戻ってください!罠です!」

 女の声。……王女?なぜここまで声が届く。

「いますぐ戻ってください! 騎馬隊は包囲されます!」

 俺は鼻で笑う。

「愚かな……勝ち戦の最中に尻込みしろだと?」

 だが、ふと胸にざらりと嫌な感覚が走った。視線を巡らすと、逃げ惑っていたはずの小鬼たちが……一斉に動きを変えた。ゴブリンたちは馬の脚へ飛びつき、短剣を突き立てる。悲鳴を上げる馬。

 コボルトは牙を剥き、落馬した騎士たちに群がる。次の瞬間、俺たちの陣形は瓦解していた。

「なっ……!」

 退こうと振り返ると、そこには巨大な影。オークの群れ。そして……巨人兵。

「お、俺たちは……誘い込まれたのか……!」

「隊列を解け! 逃げろ!!」

 必死に叫んだ。だが混乱は広がるばかり。馬は暴れ、騎士は次々と地面に叩きつけられ、呻き声と悲鳴があたりを満たす。

 俺の目の前に巨人兵が迫った。振り下ろされた棍棒が、大地を揺るがす。

「ぐはっ……!」

 衝撃で馬ごと吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。視界がぐらぐら揺れる。骨が砕けた感覚が全身を走る。

 呻き声を上げながら周囲を見れば、誇り高き部下たちが……無様に蹂躙され、喰われていく。

「ば……か……な……俺が……」

 勝ち誇った笑みは、もはやどこにもない。最後に聞こえたのは……再び王女の声だった。

「戻ってください!罠です!」

 無能と嘲った声が、今はあまりに遠く、そして温かく響いた。ゴブリンの刃が胸を貫き、視界は闇に沈むのだった。


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