辺境伯ラングレー家長男ルシアン01
わたしの名はルシアン・ド・ラングレー。辺境を治めるラングレー家の長子であり、いずれは家を継ぐ立場にある。
……はずだったのだが、どうも最近は運が悪い。
この国では、国境には王家と縁の深い貴族が置かれるのが慣例だ。辺境は他国や魔族との衝突が多い。外様の貴族に軍を持たせるのは危険だから、代々譜代の家が辺境伯を務めてきた。とはいえ、多くの辺境伯は戦場に立つわけでもなく、王都で優雅に暮らすのが常だ。本来なら、わたしもそのはずだった。
だが??やってしまった。婚約者のエルミナ・アルトリウスを怒らせてしまったのだ。
原因? まあ、ちょっとした遊びだ。平民の娘と関係を持っただけのこと。あれは恋じゃない。ほんの気まぐれ。おもちゃみたいなものだ。エルミナを本気で愛しているのは間違いない。だが、彼女は縛りがきつすぎる。ちょっとくらい目をつぶってくれればいいのに……。
そういえば学生の頃も似たようなことがあったな。冷たい美人の平民の娘、シャーリー。俺の好みど真ん中だった。そういう女を落として思いどおりにするのが、俺の趣味みたいなものだ。だが、嫉妬に駆られたエルミナが、シャーリーに薬をかけて顔を醜くしてしまった。
……正直、あれはやりすぎだ。だが、あれも俺に夢中な証拠だろう。
それで今回、父に叱責され、さらにアルトリウス伯爵からの抗議で、わたしは辺境の砦に送られることになった。ところが来てみれば、この戦場は地獄だった。魔族は一万を超える軍勢、こちらは二千足らず。普通なら逃げたいところだが、魔王軍は逃げる者を捕まえて処刑すると噂されている。少し前も、カナン領主ヴェルドリックが逃げ出して討たれ、首だけにされたという話だ。
……とはいえ希望がないわけではない。
援軍が来るらしい。しかも指揮をとるのは第五王女セレスだという。巷では"ポンコツ王女"と呼ばれているが、王女は王女だ。親衛隊や精鋭部隊を率いてくるはず。それに、世間知らずの引きこもりで、男慣れしていないとか。フフッ、そういう女を口説くのは得意分野だ。もし上手くいけば……エルミナを捨てて王女に乗り換えるのも悪くない。なんといっても、王族だ。
そろそろ援軍が到着する時刻か。わたしは鏡で髪を整え、にやりと笑う。
王女様との出会いに備えて、足を砦の入口へと向けるのだった。




