アルゴス王国第五王女セレス01
ぼくはアルゴス王国の第五王女、セレス。王位継承権は下のほうで、王になることはまずない。けれど「王族」であることに変わりはない。
この国で王族とは、絶対の存在だ。五百年続いた王の支配は、逆らう者を徹底的に排除することで保たれてきた。国は、王族と血縁貴族のためにある……それがアルゴス王国という国の姿だ。
ぼくも、そのひとり。だからといって、好き勝手に生きられるわけじゃない。「王族としての力」を示さなければならないのだ。成績優秀、眉目秀麗、武芸百般。王族はそうであるべし、と。
けれど、ぼくは違った。小さいころから本が好きで、書物を読むことで知識をどんどん吸収していった。子供の頃は「神童」ともてはやされたけれど……やがて、違う現実が突きつけられた。ぼくには運動神経も、魔術の才も、まるでなかったのだ。
剣は振れば転ぶ。魔法陣を描けば爆発する。
それでも女子なら政略結婚の道はあったけど……背は低く、目は悪く、化粧やおしゃれに興味もない。素材は悪くないと言われても、ぼくにとってそんなことはどうでもよかった。
学校に入る頃には、はっきりした。この世界では、武術や魔法の才がすべてだ。座学では誰よりも点を取れても、実技で最低点をとれば意味はない。結果、成績は常に下位。王族なのに、と陰口を叩かれ、面白がって笑う者までいた。
いつしか、ぼくは"ポンコツ王女"と呼ばれるようになった。そのあだ名が嫌で、やがて人前に出なくなった。無能な連中とつるむくらいなら、本を読んでいたほうがよほど有益だから。
ぼくは特に歴史や軍略、政治の本に惹かれた。王族専用の図書館を使えたのは幸運だった。そこには一般には公開されない古文書や記録が並び、世界の"裏側"を知ることができた。
そして、ひとつの結論にたどり着く。……この国は、もう終わっている。
国民を虐げ、魔族を虐げ、その上にあぐらをかく王族。科学も文化も発展を阻まれ、世界は暗黒に閉ざされている。この世界を滅びへ導いているのは、まぎれもなく王族自身だ。
そのことを、父王に進言したことがある。
「おまえはそんなことを考える必要はない!」
王は激昂し、ぼくを罵った。
「このポンコツ王女が! 知識だの理屈だの持ち出す暇があるなら、化粧のひとつでも覚えろ!
おまえはわたしの道具でしかない!」
それ以来、ぼくは幽閉に近い生活を送ることになった。
そして……今回。辺境の戦場に送り込まれることとなったのだ。
「おまえの知識とやらで、この戦争をなんとかしてみろよ、ポンコツ王女。王族の恥め」
兄が薄ら笑いを浮かべて、ぼくにそう告げた。




