審問官シャーリー・メルク04
……あのベルアが押されている。
審問官最強と呼ばれる男が。なんとかしなければ。
わたしは氷の槍を放った。
だが、レオンは猫のような動きで軽々と避ける。
……猫のように? そうだ、猫ちゃんがなにか言っていた。
これは猫ちゃんの力。仲間を強くする、不思議な力。さっきのおじいさんといい、レオンといい。……おかしい。でも確かに、猫ちゃんは仲間を支え、この世界を救おうとしているのだ。
ベルアはふらつきながら立ち上がる。もう限界は近い。やっぱり、わたしが戦わなきゃならない。
猫ちゃんが、わたしの前に飛び出してくる。
「猫ちゃん、じゃまをしないで」
「レオンは守るにゃん」
「なら……あなたも倒すしかない」
「それはほんとに、シャーリーの気持ちにゃん?」
「しかたないの。この世界で生きるためには、そうするしかないのよ」
「じゃあ、世界を変えればいいにゃん。食べて、寝て、遊んで、笑いあう世界にするにゃん」
「夢みたいなことを言わないで!」
「夢じゃないにゃん。ぼくはいつもそうして生きてきたにゃん。人間にもできるにゃん」
「……っ」
わたしは仮面に手をかける。
「うるさい。わたしがどんな顔をしてるか、見てもまだそんなこと言える?」
仮面を外し、醜く焼けただれた顔をさらす。
諮問官になったときに刻まれた呪い……もし組織に逆らえば、生きながら腐っていく呪い。
だから、従うしかなかった。これが現実。これがわたしの生き方。
「問題ないにゃん」
「うるさいッ!」
氷の玉を猫ちゃんに放つ。
凍りついて、二度と動けないはずだった。
だが……猫ちゃんは何事もなかったかのように、のんきに毛づくろいしていた。
「勇者魔法……『しあわせになるにゃん』!」
猫ちゃんが後ろ足で立ち、前足をひらひら振る。光の玉が現れ、わたしを包む。粉雪のような光が降りかかる。
「……なにも起きない」
「もう大丈夫にゃん。もう仮面はいらないにゃん」
顔に触れる。……あのざらつきが、ない。
信じられなくて、手鏡を取り出す。
そこに映るのは、やけども呪いの痕もない、昔のわたしの顔。
全身から力が抜けた。
自然と涙が流れ出てくる。
「……猫ちゃん、これは……」
「ぜんぶ消えたにゃん。呪いも、悲しみも」
「そう……。じゃあ、これから、わたしはどうすればいいの?」
「ぼくの下僕になって、一緒に世界を救うにゃん」
「世界はそんなに単純じゃないわ。魔王だけじゃなく、王も、諮問機関も、軍も、みんな倒さなきゃならない。たとえ倒しても、また新しい支配者が現れるの。猫ちゃんの理想みたいに甘くはないのよ」
「でもできるにゃん。みんなで力を合わせれば、できるにゃん」
「……」
わたしの心に、氷の殻を溶かすように、猫ちゃんの言葉が沁みていく。
「でも……ベルアは?」
「大丈夫にゃん。レオンがやってくれるにゃん」
猫ちゃんはそう言って、戦い続けるレオンとベルアを見つめた。




