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勇者かわいい ~知らんけど、たぶん猫ちゃんがオワコン世界を救うお話~  作者: PYON
第二章 審問官シャーリー・メルク

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審問官シャーリー・メルク04

 ……あのベルアが押されている。

 審問官最強と呼ばれる男が。なんとかしなければ。

 わたしは氷の槍を放った。

 だが、レオンは猫のような動きで軽々と避ける。

 ……猫のように? そうだ、猫ちゃんがなにか言っていた。

 これは猫ちゃんの力。仲間を強くする、不思議な力。さっきのおじいさんといい、レオンといい。……おかしい。でも確かに、猫ちゃんは仲間を支え、この世界を救おうとしているのだ。

 ベルアはふらつきながら立ち上がる。もう限界は近い。やっぱり、わたしが戦わなきゃならない。

 猫ちゃんが、わたしの前に飛び出してくる。

「猫ちゃん、じゃまをしないで」

「レオンは守るにゃん」

「なら……あなたも倒すしかない」

「それはほんとに、シャーリーの気持ちにゃん?」

「しかたないの。この世界で生きるためには、そうするしかないのよ」

「じゃあ、世界を変えればいいにゃん。食べて、寝て、遊んで、笑いあう世界にするにゃん」

「夢みたいなことを言わないで!」

「夢じゃないにゃん。ぼくはいつもそうして生きてきたにゃん。人間にもできるにゃん」

「……っ」

 わたしは仮面に手をかける。

「うるさい。わたしがどんな顔をしてるか、見てもまだそんなこと言える?」

 仮面を外し、醜く焼けただれた顔をさらす。

 諮問官になったときに刻まれた呪い……もし組織に逆らえば、生きながら腐っていく呪い。

 だから、従うしかなかった。これが現実。これがわたしの生き方。

「問題ないにゃん」

「うるさいッ!」

 氷の玉を猫ちゃんに放つ。

 凍りついて、二度と動けないはずだった。

 だが……猫ちゃんは何事もなかったかのように、のんきに毛づくろいしていた。

 

「勇者魔法……『しあわせになるにゃん』!」

 猫ちゃんが後ろ足で立ち、前足をひらひら振る。光の玉が現れ、わたしを包む。粉雪のような光が降りかかる。

「……なにも起きない」

「もう大丈夫にゃん。もう仮面はいらないにゃん」

 顔に触れる。……あのざらつきが、ない。

 信じられなくて、手鏡を取り出す。

 そこに映るのは、やけども呪いの痕もない、昔のわたしの顔。

 全身から力が抜けた。

 自然と涙が流れ出てくる。

「……猫ちゃん、これは……」

「ぜんぶ消えたにゃん。呪いも、悲しみも」

「そう……。じゃあ、これから、わたしはどうすればいいの?」

「ぼくの下僕になって、一緒に世界を救うにゃん」

「世界はそんなに単純じゃないわ。魔王だけじゃなく、王も、諮問機関も、軍も、みんな倒さなきゃならない。たとえ倒しても、また新しい支配者が現れるの。猫ちゃんの理想みたいに甘くはないのよ」

「でもできるにゃん。みんなで力を合わせれば、できるにゃん」

「……」

 わたしの心に、氷の殻を溶かすように、猫ちゃんの言葉が沁みていく。

「でも……ベルアは?」

「大丈夫にゃん。レオンがやってくれるにゃん」

 猫ちゃんはそう言って、戦い続けるレオンとベルアを見つめた。


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