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勇者かわいい ~知らんけど、たぶん猫ちゃんがオワコン世界を救うお話~  作者: PYON
第二章 審問官シャーリー・メルク

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審問官シャーリー・メルク03

 2人が倒された。強い仲間ではなかったが、それにしてもあっけなかった。

 まあ、ベルアやわたしの相手になるほどじゃない。

 ……それでも、レオンの戦い方を見極められただけで十分だ。

 次はわたしの番。氷で足を凍らせれば、それで終わり。簡単な任務。

 そう思って前に出ると……わたしの前に、金色の毛玉が立ちはだかった。

 

「また会ったにゃん」

 猫ちゃんは、まっすぐにわたしの仮面を見上げる。

「……あなたは誰? レオンの飼い猫?」

「ちがうにゃん。ぼくは猫ちゃん。かわいい勇者にゃん」

 胸を張るように言う。

「勇者……? でも、レオンは連れていく。いくらあなたの仲間でも、それがわたしの任務だから」

「そんなことしても、何も変わらないにゃん。むしろ、世界はもっと悪くなるにゃん」

「……この世界は、変わらない。わたしたちがどんなに頑張っても、何も……」

 声が震える。

「世界は変えられるにゃん。おねえさんは、ほんとはやさしいにゃん。冷たい仮面の下に、温かい心を隠してるにゃん。ぼくには見えるにゃん」

「やめて……やさしさ……そんなもの、もう必要ないの。これ以上、何も失いたくない……」

 なぜか、視界が滲む。涙なんて、もう忘れたと思っていたのに。

「失わないにゃん。ぼくがいるからにゃん。いっしょにいれば、守れるにゃん」

 ……守れる? そんな言葉を、どれほど願ったことだろう。

 ほんの一瞬、心が揺らぐ。


「さがれ、シャーリー」

 鋭い声が背後から響いた。

 ベルアがわたしと猫ちゃんの間に割って入る。

「今のお前は戦う状態じゃない。ここからは俺がやる」

 その言葉に、わたしは思わず唇を噛みしめるのだった。


 暗黒のベルア……。拷問機関において一、二を争う戦士。

 もとは地下闘技場の剣闘士。オーガ、オーク、獣人……数多の魔族を斬り伏せ、不敗の伝説を築いた男。その上で暗黒魔法を会得している。闇で肉体を強化し、魔を打ち消し、剣に闇を纏わせれば、ミスリルさえ容易く砕ける。剣士同士の戦いにおいて、彼の刃を真正面から受け止められる者など存在しない。

 だからこそ、あの男……レオンとかいう騎士に勝ち目はない。

 あのふざけた料理人は論外。

 そして猫ちゃんには、できることなら戦いに巻き込まれてほしくない。

 人間同士の不毛な争いに関わるべき存在ではないから。

 

「わたしは暗黒のベルア」

 低い声が道を震わせる。

「おまえを諮問機関に連れていく」

 抜かれた黒剣が、闇をまとって脈動する。まるで獣が牙を剥くように。

「俺はレオンだ」

 騎士は迷いなく答え、ゆっくりと剣を抜いた。

「今、おまえたちに捕まるわけにはいかない」

 その声音は静かだが、妙に揺るぎがなかった。

「ならば、少し痛い思いをしてもらおう」

 ベルアの全身から闇があふれ出す。

 だが、対峙するレオンの剣は、青白い光を放っていた。

 それは闇を照らす灯火のようで……対照的で、そしてなぜか、目を奪われる。

 ベルアと剣を交える準備をするレオンは、ただの騎士に見えなかった。その立ち姿には、かつてわたしが夢見て、そして打ち砕かれた「英雄」という言葉の残響があった。

 普通なら、ここで終わり。

 ベルアの闇の前に、剣士はひとりとして立てない。

 わかっているのに……なぜだろう。なにかを期待してしまう。

 ……胸の奥で、氷の心に走った小さなひびから、わずかな光が差し込んでくる。

 目を逸らせない。どうしても、この戦いを見届けたい……そう思ってしまうのだった。

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