↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者かわいい ~知らんけど、たぶん猫ちゃんがオワコン世界を救うお話~  作者: PYON
第二章 審問官シャーリー・メルク

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/58

審問官シャーリー・メルク02

 わたしはレオンのいる場所へ向かって、人混みの中を歩いていた。

 人々はわたしたちの姿を見ると、ぎょっとしたように目を見開き、すぐに道を譲る。異様な一団だ。拷問機関の調査官……とりわけ仮面をつけたわたしには、好奇と恐怖の視線が突き刺さる。

 こういうのにはもう慣れた。どうせ皆、影で「氷の魔女」と囁くのだろう。好きにすればいい。

 ……そのときだった。


「にゃあ」

 不意に響いた、やわらかな声。視線を落とすと、足もとに小さな影があった。気配などまるで感じなかったのに。

 まあるい瞳の猫が、まっすぐにわたしを見上げている。

「……猫?」

 心臓が、不意に小さく跳ねた。嫌いじゃない。いや、むしろ猫は大好きだ。

 人は裏切る。だが、動物は決して裏切らない。実家の近所にもよくいた。あの頃は……まだ、夢を見ていた頃だった。

 猫はためらいもなくわたしのローブにすり寄ってきた。こんな人懐っこい子、珍しい。飼い猫だろうか。

 思わず抱き上げてしまう。そして、口をついて出た言葉は、氷の魔女には似つかわしくないほど柔らかいものだった。

 「猫ちゃん……かわいいね。どうちたの?」

 自分でも驚くほど、母親のような声色になっていた。

「やさしい匂いがするにゃん」

「……え?」

「あったかい心にゃん」

 胸がざわめく。そんなもの、とっくに捨てたはずなのに。

「わたしは……そんな心なんて、もう持ってない」

 冷たく言い切る。わたしは嫌われ者の拷問機関の人間。感情を捨てた殺人機械。そうやって自分を保ってきた。

「うそじゃないにゃん。ぼくには見えるにゃん。人間のオーラが」

 小さな前足が、そっと仮面に触れる。

 ……やめて。

 反射的に払いのけようとしたが、できなかった。仮面の奥まで見透かすような瞳に、逃げ場を失った。心を閉ざしていたはずなのに。

「……馬鹿な猫ちゃん」

 気づけば、笑ってしまっていた。あまりにも自然に。何年ぶりだろう。

「その笑顔のほうが似合っているにゃん」

 その一言で、胸がぐらりと揺れる。わたしが忘れたと思っていた何かが……微かに疼いた。

「おい、仮面魔女。なに猫と遊んでやがる、行くぞ」

 背後からゴルドンの怒鳴り声が飛ぶ。

「……」

 わたしが答えるより先に、猫はひょいと腕から抜け出し、金色の尾を翻して駆けていった。

「また会うにゃん」

 その声が耳に残る。わたしはしばらく、その小さな背中を見送っていた。

 胸の奥で、長いあいだ凍りついていた氷が……ほんのわずかに、ひび割れる音を立てた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。