08
「レオン騎士隊長、ありがとうございます!」
「さすがレオン隊長、この町の救世主です!」
町へ戻ると、感謝と歓声が押し寄せた。べつに賞賛が欲しかったわけじゃない。
それでも、人々の安堵の顔を見れば……命を懸けた甲斐はあったと思える。
俺が通るたび、拍手がわき起こる。
「おまえが騎士隊長か。たいしたこともしてないのに大げさに騒ぎやがって。本来ならこんなことが起きないようにするのがおまえらの仕事だろう? 怠慢だ、怠慢。なんのために高い税金を払ってると思ってるんだ」
その声に振り向けば、あの戦中にも文句を垂れていた老人が立っていた。
まあ、こういう市民もいるだろう。俺はスルーする。
「おまえみたいなやつが隊長だからこんなことが起きるんだ。わしが若い頃だったらな、魔王軍なんて簡単に退けたもんじゃ」
唾を飛ばして噛みつく老人に、俺は苦笑で返すしかなかった。
「その笑いはなんじゃ! わしを舐めておるのか!」
「おい、そのへんにしておけよ、老害」
老人と俺の間に割り込んできたのは、イゴールさんだった。この町の南区……いわゆるスラムの顔役。裏社会の人間だが、俺にはいつも気さくに声をかけてくれる。
「町を救った英雄に向かって何をほざいてやがる。すまんな、レオン」
「いえ。……力不足なのは事実です」
「こいつはな、公園で子供の声がうるさいだの、飯にゴキブリが入ってただの……いちゃもんばかりつけてきたクズ老害だ。今までは哀れな頭のおかしい奴だと放っといたが、今回ばかりは許せねぇ。町を守るために命を落とした騎士がいるんだぞ」
「それでも、騎士は税金で──」
「うるせぇ! おまえ税金なんか払ってねぇだろ!この町から消え失せろ。次に見かけたら、ただじゃすまねえぞ」
「そ、そんなこと言わずにイゴールさん……わしは、ここを追い出されたら……」
「知ったことか」
イゴールさんの一睨みに、老人はすごすごと退散した。
「それで、レオン。これからどうするんだ?」
「……この町を出ようと思います。俺には新しい使命ができました。仲間を見つけて、魔王を倒します」
「壮大な話だな。だが、町を出るのは正解だ。この件で拷問機関が動き出すだろう。たぶんおまえが魔族と繋がっている、なんて濡れ衣を着せられる」
「そこまでしますか……」
「ああ、この国はそこまで腐ってる。平民の英雄なんて、上にとっては邪魔なだけだ」
イゴールさんは袋を俺に放ってよこす。ずしりと重い音。
「別の町で困ったことがあれば俺の名前を出せ。暗黒街にはネットワークがある。必ず助けてやる。それと、旅には先立つものがいるだろう」
「ありがとうございます……最後まで町を守れなくて、すみません」
「ああ、俺たちのことは心配いらん。この件で自警団を立ち上げるつもりだ。貴族が当てにならんことは、もう誰もが理解した」
「お願いします」
「自分の町を守るだけさ。……それと、ヴェルドリックたちは全滅したらしい。魔族の小隊に襲われ、ヴェルドリックは生きたまま連れ去られたそうだ。魔族は完全に引いたわけじゃない、気をつけろ」
「……わかりました。気をつけます」
「じゃあ、元気でな」
イゴールさんは俺の肩を軽く叩いた。
俺は会釈して、自宅へ向かう。荷をまとめたら出発だ。
肩の上で、猫ちゃんが「にゃー」と鳴いた。
……奇妙な主従の旅が、今始まったのだった。




