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天命騎士団、冒険(2)

「おお、アインエル兄妹だ」


まわりから、どよめきの声があがる。有名な冒険者なのだろうか?


「あの……」リリアンジェは銀髪の青年を見た。まわりの声から判断するに、彼はアインエル兄でよいのだろう。


「クエストランクB級ってのは冒険者パーティーのB級と同等ってことだ。冒険者パーティーってのは四人以上、かつ、アタッカーとヒーラーが一人以上いることが最低条件だ」アインエル兄が力強くいい、リリアンジェを睨めつける。


「もっといえば、ヒーラーは希少だ。ちゃんとした冒険者パーティーを組めるものは多くない! そんな冒険者パーティと、騎士のひとりが釣り合うと思っているのか!?」まわりの誰かがいった。


「そうだそうだ!」「冒険者をバカにしてんのか!」「騎士だからってえらそーなんだよ!」「調子のってんじゃねーぞ!」あちらこちらで、怒号があがる。


リリアンジェは困惑した。冒険者をバカにするつもりなど毛頭もないのに、騒ぎが大きくなっていく。


「待ってくれ、みんな。最後は俺にいわせてくれ!」アインエル兄が手を上げた。待ってました! とばかりに、その場が静かになる。


「いや……私は……みなさんを軽んじてなど……」リリアンジェは慌てて首を振る。


「うるさいぞ。冒険者をあなどる騎士モドキめ!」アインエル兄がリリアンジェに指を突きつけた。


「それは取り消してください! 私は冒険者をあなどってなどいないし、騎士モドキでもありません!」


「真の騎士たるヒルドさんを陥れようとするやからなど、騎士モドキ以外のなんだというのだ!」


アインエル兄の言葉に、そうだそうだと、まわりもはやしたてる。


そうか……先の職員といい、冒険者たちにもヒルドの手が……。リリアンジェは言葉を失った。彼らの興奮を鎮める術はない。今はただ、耐えるしかないのであろう。


「俺の妹は冒険者ランクではC級だが、ヒーラーだからその希少価値は騎士ランクのB級に匹敵する」アインエル兄が隣にいる無表情の銀髪少女に視線をやる。「もし森の中で、ヒーラーがいないとアンタが死んじまうようなところに俺らが出くわしたとしても、助けてもらえると思うなよ」


「よくいったぞ!」と、まわりが騒ぎだす。


リリアンジェは押し黙っていたが、「承知した」とカトーが応じる。「俺たちが瀕死の状態であえいでいても無視してくれてかまわない。だが、アンタたちが困っているのを見かけたら、必ずやお助けしよう」


まわりがすっと静かになった。みなが不思議そうな表情を浮かべている。そんななか、銀髪の少女がトコトコ前に出て、カトーと相対する。


「兄はアナタがたを助けないといっています。それでも、アナタは私たちを助けていただけるのですか?」希少価値の高いヒーラー少女が問う。


「俺の騎士道に誓って。まあ、騎士見習いではあるが」


「感動しました。素晴らしい騎士道です。もしその時がくれば、ぜひともお助けくださいませ、騎士見習い様」少女は騎士式敬礼を見せた。


どっと笑い声につつまれた。もちろんすべて嘲笑だ。


アインエル兄も鼻で笑い、去っていった。少女もそのあとにつづく。笑いの渦のなか、リリアンジェは恥ずかしくて真っ赤になった。


ギルドを出ると、カトーが意気揚々と口を開く。


「あんな可愛い子ちゃんに感動されちゃー、俺の騎士道もトキメクぜ」


「ただの皮肉だと思うがなぁ」とジンがぼそり。


「可愛い子ちゃんにトキメク騎士道などありません!」とリリアンジェがピシャリ。




晴れわたった朝の心地よい風を感じながら、リリアンジェは王都の西門で大きなリュックを担ぎ、カトーとジンを待つ。


ギルドでの一件から、三日が経っていた。やや早急にも思えるが、本日は森に入り、魔獣退治クエストに挑む予定だ。


リリアンジェとしては、ジンとカトーが単独でオオカミを駆除できるぐらいまでには鍛えてからにしたいところだが、天命騎士団の運用資金にその余裕はないと、カトーに説き伏せられた。


ほんとうに大丈夫かしら? オオカミに囓られることなどなければいいのだけど……。とくにカトー。


不安に思い治療薬は持ってきたが、もちろんヒーラーの足元にもおよばない。


「でっけーリュックだなぁ。ヒトでも入ってるのか?」カトーが歩いてきた。


「備えあれば憂いなしです。……ていうか、カトーはなんで手ぶらなの!?」


「戦利品を入れるリュックなら持ってるぞ」カトーがぐるりと身体を回す。リリアンジェと同じサイズのリュックがあったが、中身は空なのかペシャンコだ。


「今から魔獣の討伐にいくのですよ! 戦利品に気を回す暇があるなら、どう自分が生き残るかを真剣に考えなさい! 運が悪ければ死ぬかもしれないのよ!」


「運が悪ければ死ぬのは、いつどこにいても同じことだ」


「ああいえばこういうっ!」


「でっかいリュックだなぁ。ヒトでも入ってるのか?」


つい先ほど聞いたセリフが、うしろから聞こえた。振り向くと、声の主はやはりジンだ。


「なんでジンも手ぶらなんですかっ!」


「戦利品を入れるリュックは背負ってるぞ」ジンが腰をひねると、カトーと同じく大きな空のリュックが見えた。


「今から魔獣の討伐にいくのですよ! 戦利品に気をまわす暇があるなら、どう自分が生き残るかを真剣に考えなさい! ジンには多少の鍛錬がうかがえますが、騎士ライセンスにはまだほど遠いのですよ! カトーの存在に慢心しているようなら、今すぐ考えを改めなさい!」


「いいから早く行こうぜ、ダンチョー」カトーの間延びした声がした。


「まだ、指導はおわってません!」


「説教は借金を返したあとにしてくれ。まずは団長の身体をキレイにすることからだ」


「なっ!」


「だいたい、キンリはいくらだ」


「キンリ?」


「いつ、いくら、利子を返すんだ?」


「十日で二十万フェンだけよ」


「トイチかよ……」


「と、いち。それってどういう意味?」


「いや、気にしないでくれ。団長がなにも考えずに借金していることがよくわかった。今はそれで充分だ」


「……」


「とにかく急ごう。B級騎士がオオカミに遅れをとることはないんだ。バンバンやっつけて、借金返済だ」カトーが森に向かって歩きだす。


「まあ、そうだな」ジンもそのあとに続く。


リリアンジェは歯噛みしながらも、ふたりを追い越して先頭を歩いた。



王都城壁の門を抜け、なだらかな草原を進む。舗装された道には魔獣があらわれる気配などない。王都内と違って憲兵はいないが、代わりに冒険者や隊商が行き交う。


その間を縫うように進む町人も少なくはない。危険な場面などなく、歩きさえすれば森に着いた。森の入口には、多くの馬車が停めてある。


まるで観光名所だと、リリアンジェは息を吐いた。


森の中に入る。そこらじゅうを冒険者がうろついており、魔獣の気配は微塵もない。


もはや争奪戦なのだろうか?


それでもリリアンジェは警戒を怠らず前に進む。やがてカトーが「腹減った」といいだした。


「昼飯はウサギでも狩ればいいかと思っていたが、こんなにヒトが多いとはなぁ。木ノ実もろくにないや」ジンがぼやく。


「そろそろお昼ご飯にしましょう」


リリアンジェが大きなリュックからお弁当を三つ取りだす。


奪うようにジンとカトーが受けとり、声をあげた。「団長の手作りか!?」「そんなこともできるんだ!」


そして弁当にがっつく。


まるでピクニックみたい。リリアンジェは少し楽しくなっていることを自覚しながら、弁当を広げた。


自分は半分も食べていないのに、カトーとジンはすでにたいらげてしまっていた。


「美味しかったですか?」


「正直いまいちだ」と、カトーが冷めた顔でいった。


「へ?」


「見た目も味も平凡そのもの。空腹というスパイスがなかったら、グルメな俺としてはすすんで食べるものではない」


「……」


「料理ぐらい、俺が教えてやろうか?」


今握っているフォークをカトーの脳天に突き刺してやりたい、その衝動を抑えるには努力が必要だった。


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