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天命騎士団、救世(3)

「ウハハハ」と頭上から王子の笑い声。「回避して絶命を免れるとは、さすがは帝国の特級スパイ、なかなか優秀なものだ。おお、時守もかろうじて生きてるようだな。あの一瞬で結界でも張ったか?」


「ジン……。私はもう動けません。団長を連れて逃げてください……」


「……俺も動けない」


「おいおい、生き残ったのはオマエたちふたりだけだ。小娘とガキはしっかり心臓を潰しておいた」


「そんな……」ユーマの掠れた声が聞こえ、ジンも「守ってやれなかった」と呟き、自身の死を覚悟して想いを巡らせる。


嗚呼、厄災の主は強すぎる……。


時守でも七犬牙(セィルドグ)でも、まったく歯が立たないのだから、討伐できる者など世界中探してもいないだろう。


待てよ、唯一可能性があるとしたら一族の秘術だ。


けど、僕にはもう無理だ。僕が死んだあと、別の伝承者に委ねるしかない。ただ、制約のクリアはかなり困難だろうけど……。


いつか僕の子種が……仇を取ってくれるなんてことは、あるのだろうか?


「さて、オマエたちもそろそろ死ね。これから始まる新たな世界を見せてやれないのが、やや心残りではあるがな」王子の高らかな笑い声がしたが、すぐにピタリと止んだ。「このガキなぜ生きている?」


ジンはなんとか顔だけ横に動かす。地面に横たわりピクリとも動かないリリアンジェ。それに寄り添うようにしているユーマは、血を吐き肩で息をしている。


そして、ゆっくりと立ち上がるアラタナ。


「リリおねーちゃんを殺しただって……」


アラタナの皮膚がどす黒く染まっていき、眼は紅く光る。


「このガキ、魔人だったのか? とはいえ、厄災の主の前では無力だ。右側にある心臓を潰してやればそれでいいだけだ」


「オマエがリリおねーちゃんを殺したのかっ!」アラタナが吠える。


「ああ、そうだ。ではオマエも死ね」面倒そうにいった王子は、先と同じように手を伸ばして拳を握る。


「オマエがリリねーちゃんを……」アラタナはピクリと肩を上げただけで、かまわず前に進む。


「なぜだ? 右の心臓も潰したはずだぞ!」


王子は眉を寄せながら、手を振る。赤黒い瘴気が鋭い円錐型に固まり、アラタナの胸部を貫いた。


「オマエがリリねーちゃんを……」


それでもアラタナは止まらない。身体を大きくしながら、ゆっくり王子に迫る。


「ふざけるなぁ!」


ついには怒鳴った王子が、次々と瘴気の槍を繰り出す。


それを邪魔な枝を振り払うようにしてアラタナは前へ。ついには王子よりもずっと大きくなって眼前に立ち、その肩をつかむ。


半狂乱となっている王子は濃い瘴気を大量に撒き散らす。普通の人体なら一瞬で溶かされ、骨だけになってしまうであろう禍々しい高エネルギーだ。


やはりアラタナはビクともせずに、王子の肩にかけた手を横に広げる。ベーコンのように身体を引きちぎられ、王子はふたつの肉塊となってしまった。


ジンは唖然としながらも、あらためてアラタナを見る。内存するエネルギーを抑えられずに、さらに大きくなっていた。


「ヒトの最高峰である私やジンでもまったく太刀打ちできなかったというのに……さすがはアラタナですね」


アラタナの力が日々強くなっていることは気づいていたが、本気で戦えばまだ勝てると思っていた。だが、厄災の主をいとも簡単に倒したとなると、もはや天と地ほどの差があるということだ。こんな強さ、魔人だとしてもありえない。


「アラタナって……いったい?」血を吐いてから、ジンは訊く。


「魔王アラバタの生まれ変わりです」同じく血を吐きながら、ユーマは答える。


「魔王の生まれ変わり……」


「ええ。森の中で偶然見つけたのですが、ちゃんと殺せる保証もなかったので、育ててみることにしました」


「魔王を育てるとか……無茶苦茶だね。でもまあ、こうして世界は救われたわけか」


「それは……どうでしょう……」ユーマはゼーハーと息をしながら小さく首を振る。「魔王が覚醒したら、厄災の主どころの騒ぎじゃありません」


「どういうこと?」その問いには、リリアンジェの前まで戻ってきたアラタナ本人が応えた。


「リリおねーちゃんがいない世界なんて必要ない」もはや成人男性の二倍以上の巨体となってしまったアラタナが、魔力を吹き上げながら続ける。「ヒトなんてものは、僕が全て消し去る」


厄災の主なら一族の秘術に想い馳せることもできたが、ヒトではない魔人に秘術は適用されない。だったら人類は詰みだな。そうボヤキながら、一万年前の魔王襲来について記した歴史書の内容を思い出す。


要約するとこうだ。魔人を統べる存在として魔王が出現してから、数十年ばかりでほとんどの国家は崩壊した。


人類も一割にまで減少し、いよいよ絶滅までカウントダウンだという状況で、魔王の自害で幕は降りた。



今回も同じような惨劇となるのだろうか? それとも、今度こそ本当に人類が……。まあ、もうすぐ死んでしまう僕には関係のないことか……。


ジンは目を閉じ、静かにそのときを待っていると、カトーの声がした。


「ダンチョーが元気になれば、ヒトを滅ぼすのは勘弁してくれるんだな」


そんなバカな、カトーは秘術で死んだはず。心中で呟きながらジンは目を開けると、たしかにカトーはいた。


リリアンジェの前で屈みながら右手を光らせている。



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