天命騎士団、救世(2)
今まで正体を隠していたことも、自分がカトーを殺したことも、誤魔化すつもりはなかった。
「うん。わかってる」ジンはリリアンジェを向いて頷く。だが口を開く前に、「ダバダバダバダバッ!」という奇声が聞こえ、ジンは振り返った。
王子が釣られた魚のように、身体を激しく動かして地面の上をピチピチ跳ねている。
ナニゴトだと警戒していると、王子の身体はピタリと止まり、「あーはっはっはっ!」と笑いだす。ひとしきり笑ってから、立ち上がった。
「ずっと変だとは思っていた。僕の力はこんなものではない。全ての国の民をひれ伏せさせることができるはず……。そう思っていたのに現実は次男で、王太子にすらなれていなかった……」
「王子、どうなされたのです!?」
ジンが声をかけると、第二王子は二チャリと笑った。幼い顔つきなのに、驚くほどに嗜虐的な雰囲気を醸しだしている。
「いやいや、やれやれ、そういうことだったのか……」
「あの……王子……」
「どうやら、僕は厄災の主だったようだ。キミがあの男を殺してくれたおかげで、やっと本来の力が帰ってきた」
どういうことだ……。
カトーが厄災の主だという神託だったのに、そのカトーが厄災の主の出現を阻止していたというのか?
ジンの状況整理が追いつかないまま、「えっ、厄災の主!?」と、リリアンジェが声をあげる。
「うんうん、そうなんだ。取りあえず僕の力を確認するために、キミたちでも殺しておこうかな」
くりくりした愛らしい眼を、王子はドス黒く輝かせる。その瞳に応えるかのように赤黒い瘴気が漂い始め、王子を中心にして渦巻く。
どんどん密度を濃くしていく瘴気からはとてつもないエネルギーを感じた。人間が創りだせる代物とは思えない。
唖然とするリリアンジェの剣をジンは奪い、全力で振り抜く。本来の持ち主よりも、数倍大きい斬撃が飛ぶ。
だが、その斬撃は喰い荒らされるかのように、瘴気に侵食されて消え失せた。
「私の封印術が効きません。まさか、本当に厄災の主……」ユーマの表情には緊張が満ちていた。このようなユーマは今までに見たことがない。
「たぶんそうだよ。あのヒトの力、人間の領域を超えてるみたいだし」アラタナの声は相変わらず可愛いらしいが、そのなかでも敵意らしい圧を感じた。
「厄災の主だというなら、時守の戒律に縛られることなく本気をだせます! アラタナ、ジン。少しの間、私を守ってください!」そういってユーマは目を閉じ、呪文を詠唱する。
「ほう、時守か。力だめしには丁度いい」第二王子はニヤリ。「仲間に守らせんでもよい。魔術の発動まで待ってやるからしっかりやれ」
挑発にユーマは応じることなく詠唱に専念していたが、リリアンジェのほうが反応した。
「ユーマが時守……ってなに?」呆然とした表情でポツリと漏らす。
誰も弁解の言葉を述べることなく沈黙がしばし続いてから、「お待たせしました」とユーマは柔和に垂れた細い眼をカッと見開き、両手を天に掲げる。
その先には拳ほどと小さいものの、太陽かのように眩しく光る球体。
「聞いたことがあるぞ。数千年生きるという時守一族が、厄災の主に対抗して研鑽を続けた殲滅魔法があると!」
「そのとおりです、消えろっ! メグザーナ!」ユーマが叫ぶと、手の平で掲げていた光球が消える。それと同時に、第二王子を中心にして直径二メートルほどの光柱が立ち上がった。
その柱から発する光はあまりにも強烈で、ジンは思わず手で庇を作る。
直視こそできていないが、光の中では高度なエネルギーがせめぎ合っているのを感じた。
だが、数秒後にはバランスが一気に傾き、光が霧散して姿を見せたのは第二王子だった。
「無傷だなんて、そんなバカな……」ユーマは驚愕の表情だ。
「あーはっはっは! さすが、世界に血の雨を降らすという厄災の主の力だ」王子は高笑いしてから、顔をしかめる。「本来なら産まれてすぐにこの力があったはずなのに、あのバカのせいで……」
「あのバカとは、第一王子のことか?」ジンが訊いた。
もし、イエスというなら、自分の任務の成功は、世界の破滅と同義ということになる。
「うむ、そうだ……といいたいところだが、そもそも俺が第一王子になるはずだったのだ。それなのに、なぜかあのバカが……。まあ、いい。王家の名を軽んじてカトーなどと名乗る下賤はもう死んだのだから」
「カトーが死んだっ!」ずっと心ここにあらずだったリリアンジェがいきなり爆発した。ジンから剣を奪い返し、鋭くかまえる。
「おいおい、王子に対して無礼だぞ、騎士殿」幼い顔でからかうように第二王子が応じる。
「カトーをどうしたというのです!?」かまわずリリアンジェがエメラルドの瞳を剥く。
「殺した、そういったのだ。そして今からオマエたちもな」第二王子がいいながら右手を前に伸ばして、キュッと握る。
ナニかを感じたジンは反射的に横へ飛ぶ。
だが間に合わず、猛烈な胸の痛みとともに、その場に倒れた。まるで、見えざる手に心臓を握り潰されたかのようだ。
リリアンジェ、ユーマ、アラタナもドサリと倒れていた。




