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天命騎士団、救世(1)

あぐらをかいていたカトーは、そのまま前のめりに崩れた。背後で待ち構えていた白く輝く槍の大群も、光の粒子となって霧散していく。


死したカトーの表情は穏やかだ。なんの苦痛もなく、ただ死だけを与える。それがこの秘術だ。


どんなに強靭な肉体であろうとも、どんなに強力な魔法防御壁に守られていようとも、いざ術が発動してしまえば死を回避する手段はない。


「じゃあね、カトー。ヒルドの襲撃を治めたら、僕も天命騎士団から去るよ」ジンは立ち上がり、正門のほうに向かった。



今回の襲撃は第二王子が企てたものだ。


第一王子潜伏先を察知した第二王子が、牢屋に閉じ込められていたヒルドを抱え込み、襲撃の実行犯としたのだ。


それを察知したジンは第二王子に接触し、「ヒルドごときでは第一王子は殺せない。帝国スパイである自分が協力する」と、申し出たのだ。


そして、任務を完了したジンはリリアンジェの元に向かっている。


ユーマとアラタナさえいれば、天響騎士団の総勢五十名が揃おうとも物の数ではないのだが、今回は第二王子の刺客が紛れている可能性が高い。


個々では無類の強さを誇るユーマとアラタナだが、その強さを秘匿することに気を取られていると、不測の事故でリリアンジェが致命傷を負いかねない。


だからジンが、襲撃者たちをさっと一掃するつもりだ。天命騎士団を去ると決めているので、正体がバレてもかまわない。


もちろん、それは任務に含まれていないが、せめてもの償いだった。



ごうごうと燃える正門が見えてきた。門のすぐ内側の庭で、リリアンジェはユーマとアラタナを守るようにして、多勢相手に奮闘中だった。


五十人を超えるA級B級騎士、圧倒的戦力差にありながらも、天響騎士団にはすでに十人の犠牲者が出ていた。


リリアンジェの背中に隠れる、最強の騎士見習いユーマとアラタナの援護がうまく機能しているのだろう。


「小娘ひとりに、なにをやっている! 全員でかからんか!」ヒルドが鬼の形相で叫ぶ。


ただでさえ、三人を相手に打ち合っているリリアンジェに向かって、残りの四十人がリリアンジェに向かう。


きっとユーマが魔術で交通整理するのだろうが、ジンはその間に割って入り、まずは三人の騎士を殴り殺した。


ギョッとした表情を見せたリリアンジェだが、すぐに迫りくる大軍に視線をやる。


「ジンっ! アラタナとユーマを連れて逃げてください、早くっ!」

 

「逃げる必要はないよ」そういってジンは駆ける。


剣を振り上げて走り迫っていた騎士を、急所への三連撃で息の根を止めた。それを皮切りに、他の騎士たちにも襲いかかる。


制約で当分忍術を使えないジンだが、一族の格闘術は使用可能だ。相手をいかにして死に至らしめるかを研鑽した格闘術で、残り四十ほどの騎士たちを、三つ数えるほどで死に至らしめた。


残るはふたりだけとなっていた。その内のひとり、ヒルドにジンは迫る。


「がぁっ!」と叫びながら必死の形相で放ったヒルドの一閃。


それが届くよりずっと早く、ジンは胸部に拳を突き刺した。折れた肋骨が肺や心臓に突き刺さり、絶命したヒルドが崩れる。


リリアンジェに仇を取らせてやりたかった、との想いもあるが、一刻も早くヒルドを始末する必要があった。


ヒルドが第二王子の干渉を口走るようなことがあれば、リリアンジェはヒルアナ王国には居られなくなるからだ。


「ジン! アナタはいったい!?」


リリアンジェの言葉を背に受けながら、最後に残った人物の前に立つ。ひとりだけ騎士装束ではなく、すっぽりとフード付のコートで身を隠している。


最後の男が、フードをかぶったまま顔を上げる。


「どういう状況?」


「驚きました。まさか、殿下がこの場におられるとは」ジンはさらに近づき、小声でいう。


「僕は、『どういう状況』だと訊いた」


「失礼いたしました。すでに、ことは成しております」


「死体はどこ?」感情の籠もらぬ声で即座に返す男を、あらためてジンは見る。


ヒルアナ王国第二王子、アデル・ヴィルトゥス・インドラム・ヒルアナ。


国民からはアデル王子と呼ばれている。カトーより三歳年下だから三十代のはずだが、ずっと若く見える。


特に目はくりくりと可愛らしく、まるで少年のようだ。だが、その奥底には冷たく暗いものが垣間見える。


「死体は後ほどお届けしますので、まずはここをお離れください」


「アイツらはどうするの?」丸みの帯びた顎で、第二王子はリリアンジェを指す。


「なにも知りませんので、放置でよろしいかと」


「念のために殺しておけ」


「お断りします。殿下」


「なんだと」幼い瞳に怒りの炎が燃える。


「私は帝国の人間です。殿下の部下ではありません」


「下賤のスパイごときが生意気なっ! もういいっ!」第二王子は唾を吐いてから踵を返し、正門のほうに歩きだす。


間違いなく王子は後ほど、自分やリリアンジェたちに刺客を差し向けるはずだ。それを返り討ちにして、第一王子殺害を企てた件で脅しをかけてやると、リリアンジェからも手を引くだろう。


ジンが第二王子の後ろ姿をぼんやり眺めていると、隣にリリアンジェがきて腕をつかまれた。


「たくさん訊きたいことがあります」



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