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天命騎士団、内乱(5)

しばしの沈黙があってから加藤は口を開く。


「俺を殺してなんになる? 第一王子が生きていれば、第二王子との継承争いで王家分断につながる。ヒルアナの弱体化は、帝国としても迎合しているだろうに」


「もっといえば、第一王子が国王になったら確実に王国は弱体化するから、帝国は第一王子を支援すべき! そう唱える貴族や学者も多い」


「だったらなぜだ」


「帝国でもひと握りしか知らない情報なんだけどね、『ヒルアナ王国第一王子は世界を絶望の闇に落とす厄災の主(ドミリィーナ)だ』との神託が降りたんだ」


「俺が厄災の主? そんな大それた存在に見えるか?」


「品に欠けた酒好きのオッサンって感じかな。世界をどうの、そういう人物とは思えないなぁ」


さすがに評価が低すぎるように思えたが、そこには言及しなかった。


「だろ? だからその神託は間違えてるんだよ」


「だとは思うんだけど、僕も組織の人間だし……」


「はっきりいうぞ。俺は断じて厄災の主なんかではない。この世界に血の雨を降らせようなんざ、一度たりとも考えたことはない。だいたい帝国でも眉唾モノの神託じゃないのか? そんな大事にオマエしか動いてないのも不自然だ」


「たぶんそうかも……。でもまあ、スパイにとって命令は絶対だから。それに、帝国神事省は世界トップクラスの巫女集団だ。彼女たちが承った神託は侮れない。カトーが1%でも厄災の主となる可能性がある限り、見逃すわけにはいかない」


「ごちゃごちゃうるさいヤツだなぁ。だいたいオマエの組織の赤毛ネーちゃんを華麗に退治した俺様だぞ。返り討ちにされるだけだ」


「僕の忍術を全て駆使しても、ローズと同等だから、カトーには勝てないんだろうね」


「そういうことだ、あきらめな」


「でも一族の秘術なら、カトーを確実に殺すことはできるんだ」


「そんな都合のいい術があるか」呆れた表情で加藤はいいながらも、少しばかり緊張しているのを自覚した。


「確かに、この秘術を起動するには多くの誓約があるんだ。例えば、真の名を明かす。なにも演じずありのままをさらす。この姿もそうだし、しゃべり方も本来の僕なんだよ。そして、他の術は使えない。具体的にいうと忍術だね」


「ずいぶん正直に秘術とやらを解説してくれるんだな」


「それも誓約のひとつなんだよ」


「制約はいくつあるんだ?」


「秘術を発動する距離に応じて変わるよ。ギリギリ目視できるほど離れていると、千を超える制約になる。今みたいにすぐ近くだと、三十ほどかな」


「今回でいうと、一番難しい制約はなんだ?」


「殺意を伝え、秘術の存在も伝えた状態で、長く会話をすることだね」ジンは優しげな蒼い瞳を潤ませる。


その瞳は深すぎる蒼で、ゾクリと悪寒が奔った。


「悪いがオマエの相手はここまでだ。俺は団長のところに行く」加藤はいいながら、立ち上がる。


「手遅れだよ、カトー。すでに最難関の制約はクリアしている。そして、残る制約はひとつ」


数瞬は言葉を失った加藤だが、尊大な態度でジンを見据える。


「どんな術だろうと無駄だ。俺の回復術は、この世界のA級ヒーラーですら比較に値しないほど強力だ。俺が初めて飛んだ異世界、そのルーン公国のルンル公女のルンを受け継いたんだからな」


「ルンルンよくわからないけど、カトーの治癒術は、この世界のレベルを゙遥か凌駕しているのは確かだね。でも、治癒術なんてものは、一族の秘術にさ関係ないんだ」


「だったら、どうしてくれるというんだ?」


加藤は威圧的な声色でいいながら、蒼い光を全身に纏わせた。さらに背後には大量の光槍がかまえている。赤毛を圧倒したときより、さらに多くの槍が輝く。


そんなことはおかまいなしといった口調で、ジンは話題を変えた。


「ねえ、カトー。僕がまだ一回もマバタキをしていないことに気づいてた?」


「……なんだそりゃ」加藤は軽い口調でいいながら、さらに光の槍を増やしていく。


「今ので、僕の左目が見る光とカトーの命を重ねることに成功したよ。僕が左目を閉じたら、カトーの命も終わる」


「馬鹿げたことをいうな」


「さよなら、カトー」


ジンが穏やかにいいながら左目を閉じる。ポンッと加藤の意識も消え失せた。 


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