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天命騎士団、内乱(4)

ジン……だよな? その疑問を口にする前に、ユーマが瞬間移動でいきなり現れて、金髪の青年に詰め寄る。


「恋路の邪魔をするのは、どこの誰です!? って、あれ? ジン?」


「うん、ジンだよ」


「ずいぶん……と、変わったようだけど……」リリアンジェも起き上がり、目を丸くする。


「そうだね。でも、コレが本来の僕なんだ」らしくない口調でジンはいい、ニッコリ微笑む。「今までの街のゴロツキ風は、芝居みたいなもんさ」


「……それは、どういう意味なの?」リリアンジェは不審そうにクビを傾ける。


「僕はカトーに用があってね。悪いんだけど、その質問に答える暇はないんだ。実際、もうすぐヒルドたちが到着するだろうし」


「えっ!?」リリアンジェが目を見開いた直後に、屋敷の正門のほうで爆発音がした。


「ほら、団長。グズグズしてたら、アラタナが襲われるかもしれないよ」


なにかいいたげなリリアンジェだったが、正門に向かって駆けていった。その後をユーマが追う。


中庭に残っているのは加藤とジンだけになった。


「なにを企んでいるんだ」加藤は鋭い視線でジンを見据える。


「まあ、取りあえずは座ろう。話したいことがあるんだ」ジンはどこ吹く風で、その場に腰を下ろす。


「イヤだといったら?」


「団長を殺す」穏やかな表情のままジンはいうが、その声には圧があった。


帝国スパイとしての任務ということか……。そう、加藤は心中で呟く。


自分やユーマ、アラタナとは違い、ジンが天命騎士団にいたのは伊達や酔狂じゃないというのは、もちろん理解していた。


だが、その目的までは知らなかった。そろそろ、決着をつけねばならないのだろう。


加藤は覚悟を決め、その場に座った。「ああ、聞こうじゃないか」


「うん、ありがとう。じゃあまずは、ちゃんと自己紹介しておくね。『ジン』というのはスパイとしての偽名なんだよ。真名は『アーリサーリエバーチュシカ』っていうんだ」


「長い長い! 今までどおり『ジン』でいいよな?」


「もちろんかまわないよ。『ジン』というのが偽名だということだけ、わかってくれていれば」ジンは頷き、続けた。「僕が生まれたのは、帝国最北端といっていい村だった。そこはちょっと特殊な村でね……」

 

「待て待て! オマエの出生から聞かされるのか?」


「長くなるけど聞いてほしい」ジンは穏やかに微笑み、再び口を開く。「そこは特殊な村で、産まれた男児は五歳で売られちゃうんだ。僕の場合は、大きな農園を持ってる地主だった。そこで奴隷として働いたんだけど、十歳のときに盗賊団に襲われて、金銀財宝の一部としてさらわれたんだ。それから、盗賊の下っぱとして生きることになった。農園もたいがいだったけど、盗賊時代は酷かったね。下っぱは危険な役回りばかりだから何度も死にかけたし、性的虐待は日常茶飯事だった。もちろん普通の虐待もね」


「大変だったな……っとでもいってほしいのか?」


皮肉を飛ばしてみたが、ジンの表情は変わらず、穏やかな声で続きを話す。


「盗賊団から逃げだしたのは十五のときさ。十六の誕生日までに村へ帰らないと死ぬ呪いがかけられていたからね。もちろん追ってはかかったけど、あっさり返り討ちにできた。いつのまにか、僕は盗賊団で一番強くなっていたんだ。ともあれ、やっと村に帰れる、そうホッとしたんだけど、実はそこからの数ヶ月が地獄だった。僕と同時期に売られた子供は三十人いたけど、同じころに村へ帰ったのは十人しかいなかった。その十人で熾烈な競争があり、生き残れたのは僕だけだった。昔は一緒に遊んでいた子たちとの生死をかけた争いで、肉体的にも精神的にもボロボロになったよ。けど、その過程こそが一族の秘術を得るのに必要だったんだ」


「どんな一族なんだ、オマエは」


「『死を与える一族』と呼ばれている。相手を確実に殺す術が使えるんだよ」


「その秘術で団長を殺すってか?」


「団長を殺すといったのは、カトーをここに留まらせるためだよ。本当のターゲットは……まあ、その話はもう少しあとでね。えーとどこまで話したっけ? そうそう、僕だけが勝ち残った、ってとこだね」


続けてジンは話しだす。


一族の秘術を伝承したジンの次の役割は種馬だった。自分より十ほど年上となる村の女たち、つまりは出産に適した年齢の女たちと、昼夜問わずにまぐわり、三ヶ月で五十人を妊娠させた。それでやっと解放され、ジンは秘術をひっさげ野にくだった。


とにかく一族の村から遠く離れたいと、ジンは当てもなく東を目指す。そして、鎖国している最東端の島国にまで入り、ある娘と恋に落ちた。


その娘は命を狙われており、娘を護るために身につけたのが忍術だ。


『死を与える一族』において、伝承者のひとりとなったジンの才覚を持ってすれば、最上級の忍術を身につけるのも、半年とかからなかった。


だが、ジンの奮闘むなしく、娘の自害で幕は降りた。


失意のまま、娘の遺書に従って帝国に戻り、ある組織を訪ねた。そこで待っていたのは、自害したはずの娘だった。


「カトーも知ってるよね。例の戦いでは『マミ』と呼ばれていたヒトだよ」


「あの、ねーちゃんか? じゃー、ジンは任務中のスパイに恋して、リクルートまでされちまったわけだな」


「まあね」ジンは恥ずかしそうに頷く。「そのあとはのらりくらりと任務をこなしつつ、東の島国に戻って忍術を磨いたりとふらふらしながら十年、今の任務を受けることになったのさ」


「どんな任務なんだ?」


「ヒルアナ王国第一王子の暗殺」


「姿を見せないで有名な王子だろ。どこにいるか、わかってんのか?」


「とぼけなくていいよ、カトー。それとも、アムス・ヴァジュラ・インドラム・ヒルアナ殿下とお呼びすればいいかい?」


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