天命騎士団、内乱(3)
「誰かいると気になって眠れない質なんだ。こんなんじゃ疲れは取れない! 明日の修行にもひびくぞ!」非難めいた視線と口調で対抗する。
「では、子守歌を歌ってあげましょう。お母様にもよく歌ってもらいました」リリアンジェが加藤の手を握り、微笑む。「らーららぁ、おねむりなーさい♪ あしたも空はかーがやくぅーわぁ♪」
まじかコイツ! しかも音痴だ!
かえって眠れんと罵倒してやりたいが、長引くと面倒だ。
だから寝たふりをして、そうそうにお帰りいただくことにしたが、ずいぶん経つのにリリアンジェは帰ろうとしない。
加藤はため息とともに身体を起こした。
「わかったわかった。俺は逃げないから、団長も自室に戻ってちゃんと寝てくれ」
「信用できません」とリリアンジェはバッサリ、加藤は数瞬言葉を失った。
「しかしだな、団長。夜更かしは身体に悪いだろ」
「大丈夫です! 修行してないから体力が余っちゃって余っちゃって!」エメラルドの瞳がらんらんと輝いている。
しまった……『修行禁止』なんていうんじゃなかった……。そう加藤は後悔するも、あとの祭りだ。
リリアンジェはずっと部屋で椅子に座っており、たまに寝ているような気配はあるものの、結局脱出の機会はなかった。そして、日出と同時に起こされ、ランニングへと連れだされた。
睡眠と食事以外はずっと修業という過酷な日々が続く。そして今も、深夜零時を過ぎたというのに、リリアンジェの怒号が飛ぶ。
「気合いが全然入ってない! 何回いわせるの! こんなんじゃ、朝まで素振りは終わらないわよ!」
さらに木刀で尻を叩かれた加藤はふんだんにストレスを溜め込んでいたこともあり、「修業なんぞ必要あるか! オレはA級騎士が束になっても歯が立たないくらい強いんだぞ!」などと口走ってしまった。
「あら? だったら試合稽古でもする?」リリアンジェが小馬鹿にするようにウフフと笑う。
「やってやろうじゃないか!」と、加藤も売り言葉に買い言葉。ふたりは夜更けの中庭で対峙した。
「いつでもいらっしゃい」不遜な笑みでリリアンジェが木刀をかまえる。
いっぽうの加藤は木刀を捨て、左手を刀代わりにかまえる。左手を軸にして身体を蒼く光らせる力は、ここのふたつ前、天使が人間を蹂躙する世界で幼く逝った少女から託されたモノだ。
もちろん、それをリリアンジェに直接ぶつけることなどアリエナイが、木刀を粉砕して格の違いは見せつけてやろうとは思っている。
コトの始まりこそ、ストレスからの暴走だったが、今は熱も冷めての判断だ。
そろそろ次の世界に行くための条件集めに精を出したいという想いもあるが、やはり第ニ王子の動向が気になっていた。
何度か第一王子の名を使っている。さらに先日の裁判では、ついに第一王子として姿をさらしてしまった。
第二王子がそろそろ嗅ぎつけてきても不思議ではない。ヒルドなんていう騎士ごときはなんとでもなるが、第ニ王子が乗り出してくると、いよいよ天命騎士団は窮地に陥ることになる。
やはり、ここら辺りが潮時だろう……。
「木刀を捨てたのは、負けたときの言い訳? それとも格闘で相手してほしいの?」
「団長は木刀を持ってろ。すぐに叩き折ってやる」
「あら、勇ましいこと」
肩をすくめるリリアンジェに対して、加藤は一瞬で間合いを縮める。
そのまま木刀に一撃を加えて叩き折る……はずだったが、身体が思うように動かない。ついには下手くそなマリオネットのようにバタバタと手足が勝手に動きだす。
摩訶不思議な出来事に混乱していると、リリアンジェも同じようにバタバタしていることに気づく。
いったい何が!? その疑問と恐怖を抱えながら、加藤とリリアンジェは絡まるように倒れた。具体的にいうと、恋人が抱き合うような体勢だ。
数センチ先にエメラルドの瞳があり、リリアンジェの温かい吐息が加藤の唇にかかる。加藤はすぐさま起きようとしたが、やはり身体が動かない。
「ごめん。もうちょっとあとのほうがよかったかな……」
聞き覚えのある声に加藤はギョッとしたが、顔を上げることすらできず、「ジンなのか!?」とだけ口にする。
だが、ジンより先にユーマの声が響いた。「誰です、誰ですっ!? 『夜の修行トキメキ大作戦』の邪魔をするのは!」
身体が無茶苦茶な動きになったのはオマエのせいか!
加藤はそう憤るも、今はジンのほうが気になった。声質はジンだが、物腰の優しい口調はジンのものではない。
それに、なぜかユーマはジンをジンと認識できていないようだ。
この状況の奇妙さにゾクリとした。さらに、身体が動かないことが焦りを加速させるも、次の瞬間拘束が解けて加藤は飛び起きる。
目に入ったのは、柔らかそうな金髪で優しげな表情を浮かべる青年だった。だが、たしかに顔のパーツ自体はジンのモノだ。
服装は街のゴロツキから、アラブの民族衣装のように白くヒラヒラしたものに変わっていて、威圧的な筋肉はなりを潜めている。
それでもやはり、体型自体はジンのソレなのだ。




