天命騎士団、内乱(2)
加藤がユーマの屋敷に戻ったのは、その日の夜だった。
リリアンジェたちはいくつかの手続きのあと、一足早く夕方には屋敷に戻った。ただ、ジンは「しばらく実家に帰る」と残し、屋敷を出たとのことだ。
「明日にでも団長の無罪を祝して、祝賀会を開きましょう」ユーマが歌うようにいう。
「いえ、そのような暇はありません。明日からはカトーの修行にみっちり付き合います。ていうか、今からですけどね」リリアンジェが加藤の腕をつかんだ。「今日は素振り千本してからの就寝としましょう」
さすがに逃れる隙はなく、すぐさま夜の修行が始まった。
自分は修行禁止だからと、リリアンジェは素振りせずに、真横で目を光らせている。終わったのは深夜といっていい時間だ。
明日は朝いちで逃げよう。加藤はそう心に決めて、ベッドに転がった。
リリアンジェに布団を剥がされて目が覚めた。
「おはよう、カトー! 朝のランニングにいくわよ!」
パンツ一丁で寝ていた加藤は、おもわず胸に手をやって隠し、「きゃっ」などと声をあげてしまった。
「いい歳した男が、まるで乙女ね」リリアンジェはクスクス笑う。
たしかに……。
加藤は自分の態度に赤面しつつも、「許可なく部屋に入るなんて、プライバシーの侵害だ!」と怒鳴る。
「そのとおりだと、私も思うわ。団長だからといって、勝手に部屋に入るなんて越権行為もはなはだしい」
「そうだろ!」
「でもね、私はカトーを騎士にするって決めたの。そのためならば、カトーのプライバシーを侵害して、嫌われることになっても、いっこうにかまわない!」
「えっ……」
結局逃げること叶わず、日が昇ったばかりの王都をふたり並んで走るはめになった。
屋敷に戻ったのは、「今日の朝ごはんはなんですか?」とユーマが騒ぎだす頃合いだ。
「朝飯の支度してくる」加藤は厨房に急ごうとしたが、リリアンジェが腕を絡ませてきた。
「逃がしませんよ」
「逃げるつもりはない。朝飯の支度といったろ」
「カトーはコックではありません。騎士見習いです」
「朝飯がないとユーマがうるさい。俺は居候だからコレくらいのことはしないと肩身が狭くてな」
加藤は聞こえが良さそうな言い訳を並べる。もちろん本心ではない。少しの間でもいいからリリアンジェから離れて、そのまま逃亡する腹づもりだ。
「問題ありません。カトーは修行に専念させる旨、ユーマに伝えてあります。『料理は得意なので任せてください』と、やる気まんまんでしたよ」
食堂につくと、優雅な仕草で皿を並べるユーマが微笑む。「まあ、仲の良ろしいことで。まるで夫婦ですよ」
からかうようにユーマはいうが、リリアンジェは腕を絡ませて身体を密着させたまま、離すそぶりはない。
「ときには夫婦よりも、師弟の絆は強かったりするのです」
「ひとつ勉強になりました、団長殿」ユーマは嬉しそうにいいながら、白米、餃子、中華スープを並べる。「カトーのレシピで作ったギョーザ・テーショクです。たくさん食べて、午前の修行も頑張ってください」
この裏切りモノと、加藤は心中で罵った。
朝飯のあとは午前の修行までいくばくかの自由時間がある。しかし加藤にはそれが与えられず、素振りと腕立てをやらされた。
やがて、ユーマとアラタナが合流すると、またもや素振り。しかも『良し』を貰うまで続く終わりの知れない素振りだ。
ほどなくして、「素振りにかんしては、もういうことはありません」とリリアンジェはアラタナに微笑みかけてから、加藤に向きなおる。「腰が入っていない!」と一喝されたあとも罵倒が続いた。「今までなにを聞いていたの!」「こんなことで本当に騎士になれるとでも!」「そんなのは私が八歳のうちに、できたことよ!」「できるまでご飯抜きっ!」
さらにリリアンジェは木刀で何度も加藤の尻を打つ。自分がもといた世界だったら立派なパワハラ案件だ。
素振りとフィジカルトレーニングが終わり、昼休みの時間となった。朝は悠々としていたユーマだが、加藤のついでとばかりにリリアンジェに厳しくやられて、立つのもやっとの様相だった。
昼ごはんはアラタナが担当した。
「テン・ザル・ソバだよ」と出されたのは、加藤のオリジナルを超える驚きのクオリティだった。
アラタナの内存するエネルギーがどんどん大きくなっていることは恐怖をともないながら察知していたが、こんなことまで凄いのかと、あらためて驚愕した。
午後の修行も夕方まで続いた。
晩飯のあとは、加藤とリリアンジェだけで夜の修行だ。有無をいわさずの実践稽古で、「隙だらけです!」と、いろんなところを木刀で叩かれた。解放されたのは日付が変わる少し前だ。
皆が寝静まったころに逃げよう! そう決意し、加藤は部屋に戻る。
なぜかリリアンジェも部屋の中までついてきた。
「……今日の修行は終わりだよな?」
「そうですよ」
「だったら、なんで俺の部屋に? すっげー疲れたから、一秒でも早く寝たいんだが」ベッドに転がり、迷惑そうにいってやった。
「カトーが逃げないように、見張ります」リリアンジェは平然と答える。




