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天命騎士団、発足(4)

スレイは驚愕の表情を浮かべるも、すぐに苦悶のそれに変わった。ジンに腹を蹴られたのだ。


うずくまりながら横に倒れ、肩で息を繰り返すスレイの頭上から、ジンは言葉を投げる。


「スレイ君が勝ったことにしておいてくれよ。なに、顔は攻撃していないからバレはしない。これはキミのためでもあるんだ。C級様が俺なんかに負けたとあっちゃあ、お友達の騎士君たちにも仲間外れにされるかもしれん。それどころか、天響騎士団もクビになっちまうかもな」


スレイがこのことを他人に話すわけないが、念のためにいっておいた。


だが、ジンの立場でいうと、スレイの挑発に応じること自体が良くない行動だった。なぜなら、ジンはギリノス帝国のスパイなのだから。


しかもただのスパイではない。極秘中の極秘任務をこなす特級スパイ集団『七犬牙(セィルドグ)』、その一員なのだ。


「さっきのことをアイツに知られたら、また喧嘩になっちまうな」同僚の赤毛のことを思いだしながら、ジンはため息混じりにぼやく。


任務に忠実な彼女のことだ、スレイの挑発に応じるなどという不要なことはしなかったはずだ。それどころか、スレイの嗜虐心を満たす必要があると判断したら、靴も舐めるし股だって開く。


だが、逆に排除の判断をくだせば目撃者もろとも皆殺しだ。スレイもお友達も店主も、団員のカトーすらも……。




リリアンジェから集合の知らせがあったのは、お披露目から三日後のことだった。それからさらに三日後、男娼が集まる公園の池のほとりに集合した。


「おはようございます」とリリアンジェは生真面目な表情でいう。


ジンはあたりを見回しながら、「ああ」と応える。朝十時だというのに、色気のある少年が数人おり、こちらをチラチラと見てくる。


「さっそくですが、カトーとジンは今日から騎士見習いとして私のもとで修行することになります」


どうやら、スレイの裏切りはこの数日で消化できたようだ。


それはともかく、この場所はどういうことなのだろう? ジンの疑問をカトーが口にした。


「なんでここんなんだ?」


「公園で修行するのは節約のためです。正直いうと、天命騎士団の予算は多くありません」


多くないどころか、リリアンジェが背負った借金での運営だ。面倒な調査は好まないジンだが、さすがにそれぐらいのことは調べている。


「ここは男娼の所場として有名なんだが」カトーは横にあるベンチを眼で示す。


色白でぽっちゃりした青年が、ウインクを返した。


「えっえっ、そうなんです!?」


「知らなかったのか?」


「あたりまえじゃないですか!」


「そうか、よかった。俺とジンで天命騎士団の予算を稼ぐために、身をひさぐことになるのかと思ったぜ」


「そんなわけないでしょ!」


「だったら、とっとと移動しよう。彼らが集まるのは、この一画だけだ」


「はい、そうですね!」音階を外した声でリリアンジェがいい、踵を返す。しかし、トオセンボするように、ぽっちゃりした青年が待ちかまえていた。


「えっ、なんです?」


「あんたが、やりてババァ?」


「ババァ!?」リリアンジェはエメラルドの瞳をひん剥いたまま固まる。


カトーがなにもいわないので、ジンが教えてやった。「俺たちを買うための仲介役かって、聞いているんだ」


「彼らは騎士見習いです!」きっぱりとリリアンジェはいい放ち、青年を押しのけるようにして前に進む。


ジンとカトーはあとに続いて歩くが、ふとリリアンジェが振り返り、上目遣いで青年を見た。


「……ちなみに……ちなみにの話よ。どちらに相手して欲しかったの?」


青年が恥ずかしげに指差したのは、カトーだった。ほんの少しだけ負けた気分になったジンは、その理由を聞きたかった。


「ほう、どうしてだ?」と軽い口調で発したジンの言葉は、リリアンジェの「どどどどどっ、どうして!?」との興奮気味な言葉にかき消された。


「こっちのほうが若いし筋肉あるよっ!」さらに続けるリリアンジェに、青年は悠然と首を振る。


「僕にはわかるんだ。彼には、不思議な魅力があるの……。この世にはない不思議な魅力が」


この世にはない魅力か……。


青年からもう少し具体的なことを聞きだしたかったが、リリアンジェは先に進んだので、それに従うことにした。



少し歩くと、ひとけのない原っぱにでた。


「さて、おふたりは今日から騎士見習いとして、私の下で修行することになります。まずは素振りからはじめましょう」リリアンジェは肩にさげていた筒状のカバンから、木刀を取りだす。


「悪いが俺は剣は使わない。拳ひとつで生きていくのが心情なんだ」ジンは拳にキスした。


「では格闘術を磨きましょう。剣は使わず、槍や斧、拳を武器とする騎士も多くいます」リリアンジェが拳をかまえる。「さあ、組手です。ジンの実力をみせてください」


「悪いが女相手に振り上げる拳は、持ち合わせていない」


「これはジンの修行です。それに私は騎士ランクB級で、ジンの師匠でもあります。妙な気遣いは、かえって失礼です」


「だからといって、俺は信条を曲げることはない。俺の実力を知りたいっていうなら、俺を殴ってみな。それでわかるはずさ」くさいセリフだと自覚しながらいった。喧嘩自慢キャラを踏襲しつつも、リリアンジェの実力も把握しておきたかったのだ。


「そう」リリアンジェは見せつけるようにため息を吐いてから、ジンの腹に拳を突き刺した。


大陸の基礎的な格闘術にのっとった、お手本のような一撃だった。また、ちから加減もわきまえている。


ジンは唇を噛みながらよたよたと後ろにさがって、尻餅をつく。もちろんそれは演技だ。平然としていると不審に思われる。


「ちょっと強すぎたかと思ったのに、ジンはすごくタフですね。驚きました。騎士見習いとしての資質は充分です。でも、騎士を名乗るほどではない。私と一緒に、がんばりましょう。期待しています」


「そうかよ」とジンは悔しげに応えながら、喧嘩自慢キャラが面倒になってきていることを自覚した。


「では次、カトー」リリアンジェが木刀を差しだす。


一度は受けとったカトーだが、「素振りなんてやってられるか」と放り投げた。


「組手がいいの?」


「それも嫌だね。女、子供を殴っても、後味悪いだけだ」


「へぇ、じゃあ、ジンと同じように私の一撃に耐えてみる?」


「それでいい」


カトーはあっさりと承諾し、「おや?」っとジンは注目した。自分と同種のスキルを、カトーが持っているとは思えなかったのだ。


「わかったわ」リリアンジェが拳をかまえる。


「いつでもこいよ」


「この一撃に耐えれないようなら、心を入れ替えて修行に励みなさい。わかった?」


「小さい胸してるだけあって、いうこともちっせえなぁ」


小バカにするような表情でいってすぐ、カトーは独楽のように横回転しながら宙を舞った。腹に拳ではなく、リリアンジェからのビンタが顔面に飛んだのだ。


地面に転がり気を失うカトーを見下ろし、ジンは薄く息を吐いた。


「この世にはない魅力か……。もしかしたらカトーは……いや、俺の考え過ぎか……。ともあれ、任務の邪魔になるようであれば、それなりの対応はせねばならない」


そう独り言ちてから、空に視線をやった。この騒動に驚いたのか、スズメたちが大慌てで飛び交っている。


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― 新着の感想 ―
癖のあるカトーとジンが主人公じゃないのが物語のいいアクセントになっていますね!
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