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天命騎士団、断罪(1)

はっと目を覚ましたリリアンジェは、「どこ?」とつぶやきながら、ユーマの屋敷の自室だということに気づく。


窓の向こうに視線をやり、まるまると満ちた月を確認しながら、なんともいえぬ吐息を漏らした。


表彰式のあと、私は……どうなったのだろう……。


大変なことが起きたような気がするのだが、奇妙なほど記憶が混濁しており、うまく思い出すことができない。


リリアンジェは部屋から出て、ふらふらとした足取りで食堂に入った。テーブルにあったカメを持ち上げて、流すように水を飲む。ブエッとむせてカメを離し、その場に座り込む。


しばらくぼーっとしていると、不意に記憶の断片がよみがえった。


それはエルザの生首だった。


リリアンジェは悲鳴を上げる。すぐにあらわれたのは、ユーマだ。


ユーマに手首をつかまれると、ドクリとなにかが精神に流れてきて、気分がずいぶん落ち着いた。


「あの、私は……」


「いちから話しましょう」と、ユーマは驚くべきことを、坦々と語りだす。


ヒルドが軍務省長の暗殺を企て、その罪を天命騎士団になすりつけようとしていたこと。

それを阻止するためにリリアンジェが奮闘していたこと。

だが、結局は天響騎士団に潜んでいた帝国スパイが省長を殺して逃げてしまったということ。


「あの……エルザとロッドは……」


「その名前はカトーから聞きました」そう前置きをしてから、ユーマは答えた。「ずいぶん前に、帝国のスパイに殺されていたようです」


リリアンジェはがっくりと頭を垂れた。動く力が湧かずに、そのまま固まり続ける。


「カトーになにか元気が出るものを作らせましょう」やがてユーマがいった。


「そうだ……カトーだ……」リリアンジェはのそりと立ち上がり、三階の端にあるカトーの部屋に向かってゆらりと歩きだす。


「大丈夫ですか……」ユーマは心配そうな声でいいながらついてきた。


「あの……エルザとロッドの……その……」


「御遺体であれば傷まぬよう、私の魔術で凍らせています」


「そう……ありがとう」



カトーの部屋の前に着き、弱々しいノックをしてから「カトー」とか細い声で呼んだ。


だが、返事はない。


「今は真夜中ですからねぇ、寝てるのでしょう。なに、私が叩き起こしてきましょう」


「でもっ」とリリアンジェが戸惑うも、ユーマはドアに手をかける。


そのタイミングで内からドアが開き、カトーが出てきた。


「遅くにごめんなさい……」


「用件はなんだ」


「エルザとロッドを故郷に埋葬するのを手伝ってほしいのです」


「……」


「……いや、ですか? どうしてもエルザを弔ってあげてほしいのです、カトーに……」


「わかった」と、カトーは静かにいった。




エルザとロッドの埋葬は、リリアンジェとカトーだけで行うことになった。


やるべきことが定まれば、リリアンジェの活力もあるていどは戻ってきた。さっそく二日後、馬車でふたりは北に向かう。


「来てくれてありがとう」馬車が王都を出た頃合いに、リリアンジェはいった。


「ユーマとアラタナも来たがってたのに、どうして断ったんだ?」


「余計な手助けはしてほしくなかったのです。私はロッドを葬りますから、エルザはカトーがお願いします。旅費もすべて折半にしましょう。エルザのための費用はカトーが出してください」


カトーは、俺がどうしてそこまで、などとはいわなかった。「わかった」と静かに頷く。



三日野宿して、エルザたちの故郷に着いた。その村はけっこうな寂れようで、廃屋が目立った。


エルザの生家に行き、ふたりの訃報を告げ、見舞金を渡した。父はすでに亡くなっており、弱った母親が対応してくれた。


エルザとロッドの無惨な姿をさらすことはしなかった。


いったんお返ししてから埋葬の許可を取るべきだと、リリアンジェは主張したが、カトーは反対した。


筋を通すことばかり考えていたリリアンジェだが、たしかにカトーの言分のほうが正しかったと、あらためて感じた。


エルザやロッドもそれを望んだとは思えないし、もしアレを見せたら母親の寿命が縮むことになったやもしれない。



村を一望できる高台にふたりを埋葬した。すぐ隣には、若々しい樹がのびている。


夜は近くで野宿をしたが、夜中に目が覚めると、カトーの姿がなかった。


墓のほうに歩く。カトーはエルザの墓前で酒を呑んでいた。その様子をしばらく眺めてから、リリアンジェはカトーの隣に座る。


「私も一緒に呑んでいいですか?」


「残り少ないんだ」カトーは渋い顔。


「ちょっとだけです。ふたりの邪魔はしません」かまわずリリアンジェはカトーが持っていたトックリを奪い、そのまま口をつけた。「ねぇ、カトー。もう一度聞かせて。エルザのこと、どう思ってた?」


「俺がもっとしっかりしてれば、あの娘が死ぬことはなかったのだろう……」


酔っ払っているのか、カトーの言葉はやや的外れだ。だが、その想いは充分に伝わった。


「わかりました。カトーを立派な騎士にすることを、私の第二の天命とします! 帰ってすぐに修行しましょう」


リリアンジェはカトーの願いに応えたつもりだが、とうの本人は「えっ?」っと意外そうに目を開いていた。



その夜から三日目の朝、王都北区の門をくぐった。そこで、「友人に会う」と、カトーは馬車を降りた。


その日の夜、リリアンジェはひとりでユーマの屋敷に帰ってきた。夜だというのに誰もいない。


どうしたのかしら? そう首をひねると、出入り口がバタバタ騒がしくなった。向かうと、数十の憲兵たちがいた。


「軍務省長を殺害した大罪人リリアンジェだな!」彼らが剣を突きつけてくる。


「私は軍務省長を殺害などしておりません!」混乱しながらもリリアンジェはいう。


「それは裁判で証明すればいい。だがな、ヒルドさんは確定的な証拠を用意しているぞ!」


リリアンジェがまだ幼いころの記憶、父が憲兵に連れて行かれる後ろ姿を思いだし、ズキリと心臓が痛んだ。


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