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天命騎士団、九死(7)

「人命救助のためなら、俗世に多少は関与しても許されるけど、基本的に私たちはただ見守るだけの存在よ。それなのにユーマは勝手なことしすぎ! さあ、早くこの封印術を解きなさい!」クィンはしかりつけるような口調でいう。


私より数百も年下のくせに! と、ユーマは悔しがるも、クィンの正論に対抗する弁などなかった。せめてもの抵抗に、プイッと顔を逸らす。


「あいかわらず子供ねぇ……。解かないなら私が強制解除するだけよ」


「いいんじゃないか? ちょうど三対三だ」カトーが歩いてきた。


「おおっ、カトー! 団長は?」ユーマはうってかわって声を弾ませる。


「もう大丈夫だが、今からの戦闘で巻き添えをくわないように守ってやってくれ。時守でもそういうことなら問題ないんだろ?」


「もちろんです!」ユーマはクィンにベロベロバァをしてから、リリアンジェのもとへ。


「アラタナは男のほうを頼む。ジンは赤毛」カトーはいいながら、マミの前に立った。「このネーチャンの相手は俺だ。ちなみに俺は女だからって手加減しないぜ」


「私は手加減してあげるわ。なにせ貴重な貴重な異世界人なんですものね」


「ふん」とカトーは鼻を鳴らす。


ユーマは健やかな顔で眠っているリリアンジェを満足げに眺めてから、声を張る。


「では、そろそろ、術を解きますよー。いち、にー、さん、はい!」


カトーの全身が蒼い炎のようなエネルギー体に包まれた。ユーマと戦ったときは左手にまとわせていただけなので、あの時よりずっと本気だということだ。


「あれ、彼のギフト? さっきの治療術とは別系統のようだけど……」クィンが隣でいった。


「ギフトではないそうですよ。神の都合で転生させらたわけじゃないカトーは、ギフトを貰えていないらしいです。自らの意思で異世界を渡り歩き、手に入れた力だといってました」


「私も何回か異世界人にあったけど、そんなの初めて聞いた」


ジンとアラタナはすでに戦闘を開始しているなか、カトーとマミはいまだにお互いを見合っていた。


「そろそろ始めようか、ネーチャン」蒼い炎の他にも、カトーの背後には百を超える光の槍がそろっている。


「……」マミは無言でかまえると、その回りで光る蝶が生まれだす。それはみるみる増えていき、彼女を守るように舞っている。すぐに彼女の姿が見えなくなるほどの量となった。


強力な防御の魔術だ。この術を十秒足らずで最終形態までもっていくとは、尋常ではない魔導スキルだ。時守と同等などと噂が立つのも納得できる。


対策をこうじないとマミには指一本触れることができないまま、光る蝶に身体を喰い荒らされることになる。


それを知ってか知らずか、カトーは駆ける。


「カトー!」とユーマは慌てて叫ぶが、とうのカトーはマミの横を駆け抜けていた。


向かった先には、激しい戦いを繰りひろげているジンとローズ。


そしてカトーは、ローズに一撃を喰らわせる。


ジンとの戦いに集中していたからか、それともカトーの襲撃など想定外だったからか、はたまた両方か。まともにくらったローズが吹き飛ぶ。


「エルザとロッドの仇だ! 死んで償え!」カトーはローズを攻撃し続ける。蒼く輝くオーラをまとったカトーの手刀や蹴りが飛び交う。さらに、光の槍もローズ目がけて放たれている。


不意をつかれたローズは防御一辺倒だったが、やがて赤い炎が爆発するかのように燃え広がった。とんでもないエネルギーを感じる。ローズの本気中の本気なのだろう。


応じてカトーの蒼いエネルギー体も、広がりこそしないが、より蒼く濃密になっていく。さらに、万はあろうかという光の槍も補充された。そこまでくると槍というよりも大きな光の塊だ。


ジンはすぐさまマミと対峙して、ローズの援護に向かえないように牽制していた。


だが、ジン対マミで白熱の戦闘が繰り広げられることなどなく、ふたりとも興味の大半はカトーとローズの戦いに注がれているようだった。


実際、様子見や時間稼ぎなどの不純物が微塵もないカトーとローズの戦闘は激流だった。


青と赤の拳と蹴りがぶつかって、爆発しているかのような輝きを放つ。高度なエネルギーの衝突にハレーションのような光が入り乱れる。


紅と蒼がせめぎ合うなか、カトーの光の槍が全弾放たれた。まるですべてを無にするかのように、ふたりを光が包みこんでいく。


「おおっ」あまりの眩しさにユーマは手で庇をつくり、目を細める。


やがて光はおさまり、残ったのは床に倒れるローズと、蒼い手刀を振り上げるカトーだ。


その手刀がローズの首を目がけて落とされる……寸前にカトーは止まった。


「邪魔をするのか?」カトーはぎろりとクィンを睨む。


「ヒトを救うためなら、時守は多少の力を行使してもいいのよ」クィンの封印術がカトーを含めて皆を捉えていた。先ほどのユーマの術と同じものだ。


「幾人も殺した極悪スパイですよ! 救う価値などありません!」ユーマは抗議する。


「戦争を煽るやからを排除して、あの忌まわしき戦火から帝国と王国の民を救っている正義の使者でもあるのよ」


「なにが正義ですかっ! 戦争推進派などとは遠いところにいる我が団長を殺そうとしておいて!」


「それはやり過ぎだと、私も認めるわ」クィンは肩をすくめながら進み、マミの前に立つ。「まだ続けるなら全員の術を解く。忠犬(ハッチグ)ちゃんを連れてすぐに立ち去るなら、アナタたちだけ術を解くわよ」


「任務失敗なんてアナタたちには許されないでしょ! 続行です、続行!」ユーマが煽る。


「引きます。忠犬を失うわけにはいきません」マミは答えた。


「さすが、番犬(ケロベグ)ちゃん。いい判断だと思うわ」


クィンが指を鳴らすと、アラタナと対峙していた男が歩きだし、ローズを肩に背負った。


マミはジンに片目を閉じてみせる。


「私たちの任務は中途半端なものになってしまったけど、アナタの任務は成功することを祈っているわ」


マミはそのまますっと消え、ローズを抱えた男も消えた。気がつくとクィンの姿もなく、術も解けていた。さっそくアラタナはリリアンジェの元に駆けよる。


「あとで記憶を混濁させる魔術をかけるので、まだ起こさないでくださいよ!」ユーマはいいながら、ジンに視線をやった。


かなり傷ついているジンは、大きく息を吐きながら崩れるようにあぐらをかく。痛みに耐えるような色はなく、ただただ安堵の表情をしている。


一方のカトーは失意の表情で、ローズが残した生首の方に向かっていた。


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