天命騎士団、九死(6)
ジン本体はローズの攻撃に防戦一方のなか、一瞬だけカトーとユーマに視線をやる。必死の形相だった。
どこまでできるかわからないが、一秒でも長く持ちこたえるしかないようだ。
「ジンの任務は、天命騎士団にかかわることなの? 多分違うでしょ? そろそろ、無益な戦いはやめましょう。勝ち目なんてないわよ」
マミの言葉をジンは無視した。本音でいうと、ローズと本気でやりあっている状況なので、ごちゃごちゃ喋る余裕がなかった。
「いくわよ、ヤーム」マミはため息を落とし、参戦してきた。
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高度な忍術がジンから惜しみなく放たれる。時間を稼ぐために、なりふりかまわず自身の秘術を披露している。
秘術の披露という意味ならカトーもそうだ。この世界のどの魔術体系にもあたらない神秘の力を、出し惜しみなしだ。
「治りが遅い! 傷口の部分だけ時間の流れを戻せ!」カトーが声を荒げる。
「またそんな無茶なこと……。時守といえども……そんなことができるのは私ぐらいですよ」
「いいから早くやれ!」
「はいはい」と気軽にいいながらも、かなり無茶な要求だと緊張した。ユーマは息を飲みながら慎重に、時の秘術の範囲を調整する。
応じてカトーの右手の輝きも増す。傷口だけでいうと、ほぼつながったように見える。だが、骨に筋繊維、神経や血管、内部ではそういったモノの回復が必要なのだ。
「ジンが大変そう……」アラタナはボロボロになりながらも奮闘するジンを見つめながら、歯噛みしていた。魔力供給ばかりで、動くことができず歯がゆいのだろう。
ユーマとしてはどうしようもなかったが、カトーが朗報をもたらした。
「首の中もだいたいはつながった。時の魔術は俺の合図で止めろ。その瞬間に全身を治癒する」
「おおっ」とユーマはいい、カトーの合図に合わせて秘術を解除する。
リリアンジェの全身が光に包まれた。
「まだ機能不全となっている内臓がいくつかあるが、あとは俺ひとりで大丈夫だ。ジンを援護してくれ」
カトーの言葉に、「まかせて!」とアラタナが飛び出した。
「ちょっと待ってください」ユーマはいい、時守にしか伝承されていない封印術を展開する。
敵の三人衆はもちろんのこと、ジンとアラタナの動きもピタリと止めた。対象外としたのはカトーとリリアンジェだけだ。
「さあさあ、時守の封印術はいかがですか?」
歌うようにいうユーマとはうってかわり、生殺与奪の権を奪われものたちの顔は凍りついていた。
例外はアラタナ、「僕まで動けないじゃないか。余計なコトしないでよ」と、不満げにユーマを見る。
「さすがは時守様ですね」数瞬で表情を取り戻したのは、柔和で愛らしい表情の女性だった。たしかジンは、『マミ』と呼んでいた。
「ほう。私が時守と知っていて、喧嘩を売ったのですか?」
「時守様に害をなすつもりはありません。ここはお引き取り願えませんか?」
「ことわりまーす」ユーマは明るい声でいってやる。
「私たちにも任務がありまして……簡単には引き下がれないのです」
「ペイントさんとヒルドさんの命なら、お好きにどうぞ。私には関係ありませんので」
「シナリオ上では、口封じのためにジンと時守様以外は全員死んでもらう予定でした」
「それを私が許すとでも?」
「では、ヒルアナ王国の時守様を無力化するしかありませんわね」マミが薄く笑みをこぼす。
「ほうほう、時守である私を無力化すると……。たしか、帝国には時守に匹敵する魔導士がいるだとかの噂はありましたが……。よし、その挑発、のってあげましょう。どこからでもかかってきなさい」
「すでに策は講じています。これ以上、時守様が私たちに危害をくわえるようなことがあれば、その策は自動的に発動するでしょう」
「御託はいいから、その策というのを見せてみなさい」
「本当によろしいのですね。ユーマ・ヒルアナ・メインサー様」
時守としてのフルネームを呼ばれたことに苛つきながら、「しつこいですよ、早く策とやらを見せなさい!」と語調を強める。
「はい、見せてあげる!」そう応えたのは、いきなり現れた長すぎる髪の若い女だ。その異様に長い黒髪は、女の足元でとぐろを巻いている。なんでも、一度も髪を切ったことがないそうだ。
女の名は、クィン・ギリノス・メインサー。ギリノス帝国の時守だ。
「なるほど……そうきましたか……」ユーマはぼやく。




