天命騎士団、九死(4)
「アールメィの小娘め!」ヒルドは剣を抜き、たて続けに斬撃を放った。
「そんなモノで私を倒せると思うな!」すべて弾き返したリリアンジェが吠える。
「こっちならどうだ!」ヒルドはアラタナに向けて斬撃を放った。
「卑怯な!」リリアンジェはアラタナの前まで飛ぶように駆け、斬撃を蹴散らす。
「ほら、じゃあ次はこっちだ!」ヒルドはペイントに向けて斬撃を放つ。
すんでのところでリリアンジェが斬撃を弾く。
「次はこっち!」
今度はアラタナに向けて斬撃、それにもリリアンジェは必死の形相で対応する。
そのやり取りが何度か続いた。
ペイントは、「ワシだけを守れ!」と騒ぐ。それに反してアラタナは無言だったが、爆発寸前に見えた。リリアンジェにバレないように、などという騎士見習いの暗黙の矜持など吹き飛ばし、怒りまかせにヒルドを殺しかねない。
そうなる前に俺が対処するか……。
ジンはヒルドに向けてふらりと歩きだした。そのタイミングでヒルドにべったりだったローズもペイントのほうに歩きだす。
あいつ、なにを!? ジンがその真意をつかみかねていると、ローズはペイントに捕縛された。
「お前の愛人は俺の手の中だぞ!」ペイントは短剣をローズの喉に突きつけて、ヒルドを見据える。
「おお……」と、ヒルドは怯んだ、ように見えた。
「ペイント様、お待ちください。ヒルドは私が必ず打ち倒しますから、その女性は解放してください」
「御託はいいから、動揺しとるヒルドを早く成敗せんか!」
「俺は妻も子もいる身だ。ローズ、そろそろ関係を清算しよう」ヒルドはかまわず斬撃を放った。
「そんな!」ペイントは短剣を捨ててしゃがみ込む。
「ひとでなしめ!」リリアンジェも斬撃を飛ばす。運良くビルドの斬撃に当たって相殺させた。
眉をひそめたローズがすっと背後からリリアンジェに近づいたので、ジンがそれを阻む位置に立つ。
ローズはジンをひと睨みしてから、ヒルドのほうへ飛ぶ。
いきなり目の前にやってきた愛人に、ヒルドは数瞬戸惑ったようだが、「さっきのは冗談だ」といいのける。
「役に立たないひとね」ローズはヒルドの顎に一撃を加え、剣を奪った。
ヒルドは仰向けに倒れ、間の抜けた表情をさらして気絶している。
「おお、そなたが助けてくれたのだな、あっぱれじゃ!」ペイントはぬけぬけとローズを褒める。
「違うわ」ローズはヒルドの剣を振った。ペイント目がけて斬撃が飛ぶが、リリアンジェが防いだ。
「なっ、なにをする!」ペイントは声をあげるも、「黙れ」とローズが凄む。ペイントはヘビに睨まれたカエルのように、固まった。
「いったい、どういう……」リリアンジェは困惑した様子でつぶやく。
「ヒルドがペイントを殺す、そしてヒルドはそこの娘と相打ち。それがマミの作ったシナリオ。帝国との戦争を煽るやからを落とし入れる目的もあるから、娘のほうには親の敵討ちの美談つき。そう悪い話じゃないはずだけど」
「アナタはなにをいってるのですか?」
リリアンジェが問うも、ローズは無視した。先のローズのセリフはジンに投げられたものなのだ。そのジンも、なにかを答えることはなく、ローズの次の一手にかまえる。
「そうだ、リリアンジェさんにおみやげがあるの」いきなりローズが口調を変えた。
「えっ、はあ……」
「銀色の髪と瞳をしたアインエル兄妹っていたでしょ。たしか、天命騎士団と懇意だったのよね」
「ええ……。入団することになっていますが……」
「ハプス家三男を始末した直後に声をかけられたの。バレはしてないと思うけど、念のために殺したわ」
「え……」
「証拠を見せてあげるね。なにかの役にたつかと、保管しておいたのよ」
どのような系統の術かわからないが、ローズが手のひらを赤く光らせると、ぼとりと生首が落ちてきた。
間違いなくアインエル兄妹のものだった。
任務のためとはいえ、こんな少女に手をかけるのか! 万の命を救うために、どうしても少女の命が必要なら、まだ理解してやってもいい。だが、念のためでやっていいことではない!
それが野犬と忠犬のスタンスの違いだった。
任務があってもフラフラと気ままな野犬と、任務に忠実すぎる忠犬。
任務のためなら赤子でも殺す忠犬のことを、野犬は嫌悪している。それとは逆に忠犬としては、自分の感情を優先する野犬などは、スパイとして許すまじ存在だと口にしている。
スパイという肩書の中において、ふたりは両極端な存在なのだ。そして今、ジンはあらためてローズを嫌悪し、対決の覚悟を決めた。
一方、リリアンジェとしてはそれどころの騒ぎではなかったようだ。
「キサマ!」と叫び、ローズに飛びかかる。
しまった! エルザの首はリリアンジェを引きよせるためだったか! ジンはローズとリリアンジェの間に割って入ろうと駆ける。
「邪魔はしないで。そう、いったはずよね」マミに手首をつかまれて頭上高くに投げられた。
くそっ! いつからいやがった!?
リリアンジェ暴走への対処する隙を突かれてしまった。
空中でジンは歯噛みしながらも、ローズに向けて火遁の火柱を放つ。だが、それはヤームの結界術に阻まれた。
「ちくしょぅ!!」ジンが叫ぶと同時にローズが駆け、リリアンジェとペイントの首が飛んだ。




