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天命騎士団、九死(3)

状況がよくわからないまま、係員の先導で会議室に案内された。闘技場よりも広い大会議室だ。


その奥で、従者をひとり隣においた軍務省長ペイントが、不機嫌そうに短い手足を組んでいた。


「式の直前に、なにやら騒動を起こしたらしいな」威圧的な声色でペイントはいう。


「でも、それは!」


「騒動を起こしたかどうかを訊いている。返事は、YESかNOで答えたまえ」


「その……YESです」


「由緒ある騎士団表彰式でなんということを! 騎士ライセンスの剥奪が相当だ!」ペイントは机を叩き、顎の肉が揺れる。


「そんなっ!」リリアンジェが蒼白な顔でいった直後に、ペイントは血を吐いてテーブルに伏した。


「え!?」


背中には刃物が刺さっており、いつの間にか隣にいた従者が消えていた。


「えっ!? なにっ!?」


リリアンジェが混乱の真っ只中にいるところ、大きな扉が激しい音をたてながら開かれる。


その先にはヒルドと十人の騎士たちがいた。さらに、こわごわとヒルドの後ろに隠れるローズの姿も。


「軍務省長を手にかけるとは、なんたる暴挙!」ヒルドたちが会議室に流れ込んでくる。そして、リリアンジェに剣を突きつけた。「粛清してくれる!」




     □□□□




ヒルドというのは、ここまでやるヤツだったか、そうジンは驚いた。


軍務省長を殺害し、それをリリアンジェに押しつける。そして犯人を討つ。そのあと狙うのは、おそらく軍務省長のイスなのだろう。


「わ、私はなにも!」


「しらばっくれるな! では、誰が軍務省長を殺したというのだ!?」芝居がかった声でヒルドはいう。


「誰が死んだって?」カトーが不意に割り込んだ。ペイントの背中に手をおいている。


「逆賊リリアンジェが軍務省長ペイント卿を殺した、そういっている」高らかに答えたヒルドの表情が抜け落ちる。


くだんのペイントがむっくり身体を起こしたのだ。


カトーの治癒魔法か? エルザを救ったのもおそらくカトーだ。この傷をこの速さで治癒したというなら、世界の理を逸脱したレベルのヒーラーということになる。


「なんだ、なにが起きてる!? そういえば先ほど、ワシはどうなったのだ?」ペイントはキョロキョロと首を振る。


リリアンジェ、ヒルド、ペイント、全員が困惑しているようだったが、一足早く正気に戻ったのはペイントだった。


「ワ、ワシを殺すというのか、ヒルド! 今までの恩を忘れて!」


「お前に恩などないわ! かまわん、殺せっ!」ヒルドは開き直ったようだ。部下の騎士たちをけしかける。


「そんなことは許しません!」立ちはだかったのはリリアンジェだ。ペイントに斬りかかった三人の騎士の一閃を弾き返した、


「おお、そのほう、よくやった。命を賭けてワシを助けるのだ! 褒美は思いのままじゃぞ!」


ペイントの口ぶりに呆れるジンだが、この危機を乗り越えれば天命騎士団は大きな栄誉を得ることになるのだろう。


だが、リリアンジェがそんな打算をめぐらせたようには見えない。ただ、命を救うために必死なだけなのだ。


複数で襲いかかる高ランク騎士相手に、手心を加えるほどリリアンジェはおろかではなかった。躊躇なく必殺の一刀を放ち、三人の騎士を斬りふせた。


「同じB級三人を相手に!」ヒルドは悔しそうにいう。「全員でかかれ! なにをしている!」


ローズを除く残りの七人がいっせいに動いた。そのなかにはA級もいる。さすがにリリアンジェだけでは厳しい。


「ライセンスは持ってませんが、私はC級魔導士相当なんですよ!」


そんな肩書ですでに魔法を幾度も披露していたユーマが援護した。会議室の椅子や机が天響騎士団たちに降り注ぐ。


その混乱にじょうじて、リリアンジェは騎士をふたり斬り倒した。残りは五人、ジンの評価ではB級が三人にA級が二人。


A級のひとりが連撃を放つ。それにしっかりと対応するリリアンジェは、もはやB級の領域にはいないのだろう。


とはいえ、A級との戦闘中に複数人を相手するのは難しい。横から斬り込んできた騎士を目がけて、ジンは礫を投げた。


額にあたり怯んでいたところをリリアンジェが斬りつけ、A級に向きなおる。残りは四人。


「なにをやっている! ガキを人質にとれ!」卑怯きわまる作戦をヒルドが叫ぶ。


それに応じたのは、もうひとりのA級だ。アラタナ目がけて走る。


A級だというのに率先して人質を捕縛する役を買ってでるとは、なかなかの性格だ。


アラタナの危機にリリアンジェは血相を変えて、その騎士を追う。


「なにをしている! そんなガキよりワシを守らんか!」


ペイントが叫ぶも、リリアンジェの耳には入っていないようだった。アラタナの前でA級騎士と打ち合う。


その隙に、ジンは残りの騎士に対処した。火遁蛍狩り、騎士たちの身体で数ヵ所が発熱。死を与えるような威力はないが、騎士たちはギョッとして身体を固くする。


時を同じくして、アラタナに迫ったA級すら、リリアンジェは斬りふせていた。ジンが評価した本物のA級だ。過去のA級ではない。


おおっ、とジンは驚くも、A級騎士の足の甲が砕けていることに気づいた。アラタナがリリアンジェにバレないよう、騎士の足を踏みつけたのだろう。


アラタナの危機を回避させたリリアンジェは、すぐに次の目的に移行する。


ジンがほどこした火遁の痛みに困惑気味だった残りのB級騎士二人を電光石火で斬り崩した。そして残りのA級と互角の撃ち合いを繰りひろげ、ついにはリリアンジェの突きが騎士の胸をつらぬいた。


「残りはアナタだけです! ヒルド!」リリアンジェの翠の瞳が宿敵をとらえる。


口ぶりからするに、ローズは勘定に入っていないようだ。


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