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天命騎士団、九死(2)

体型は貧相だが、弱そうには感じない。いや、そもそもこの場に弱い騎士などいないのだ。


「アイナを侮辱するのは許せません。取り消しなさい」


「嫌だといったら?」その騎士が剣を抜いた。


リリアンジェも剣に手をかけるが、踏みとどまる。


「どうした、抜けよ」


「やめましょう。由緒ある表彰式でこんなことは」


「じゃあ、お前たちは淫婦のおかげでこの場にいると認めたわけだ」


リリアンジェは唇を噛みながら挑発に耐え、あの時のことを思い出す。


自分が不在にもかかわらず決勝戦で勝利したのは、相手の油断と不調だと、ユーマからは聞いている。だがさすがに、アラタナの件への不信はぬぐえなかった。


とはいえ、アイナが不正をおこなったとは到底思えない。


「なんかいえ。それとも、ご令嬢の股のゆるさを認めるのだな」


またもやアイナを!


リリアンジェが必死に怒りをおさえていると、すっとアラタナが前に入ってきた。


「僕がB級の一刀を指で止めた子供だよ。止めたというか、指でつまんだんだ。おにいさんにも、同じことをしてあげる。そうすれば、アイナ様が悪いことなんてしてないって信じてくれる?」


「おいボウズ。俺はA級だ。しかも木刀なんかじゃなく、本物の剣だ」


「だからなに? BでもAでも、木でも鉄でも、僕にとっては大差ないよ」


「いったな! ボウズ!」


アラタナの脳天目がけて、A級の自負に値する鋭い一刀が放たれる。


なにがあってもアラタナの命には代えられない! リリアンジェも剣を抜き、その一刀を弾いた。流れのまま五合ほど打ち合う。


「いいかげんにしろ!」そう、割って入った者が、ふたりの手首をつかんだ。「もうすぐ式が始まる。ここらへんでおさめておけ」


これ以上式典を乱すわけにはいかない。相応の実力者が仲介してくれたことにホっとしながら、その者を見る。


ヒルドだった。


いきなりのことに、リリアンジェの中で理性が閉じる。後ろに飛んでヒルドの手を振りほどき、ほぼ無意識に剣を振り上げていた。その直後にパシリと乾いた痛みが頬を奔る。


数瞬後、カトーにぶたれと気づく。


「なっ!」


「落ちつけ、団長」


「……」


「では、私はこれにて」ヒルドはこちらを責めるわけでもなく、涼しい顔で去っていった。


同じくアイナを愚弄した騎士もすっと立ち去る。


「落ちついたか?」


「……はい」リリアンジェは呆然とつぶやく。


「それにしても、あのヒルドが止めに入るとは……。彼にもそれなりには騎士道がそなわっているようですね」ユーマがいった。


「どうだろうな。俺はヒルドが仕組んだことだと思うがな」カトーは首を振る。


「だったらあの場で出てこずに、そのまま団長を暴れさせるほうが良かったのでは?」


「続きのストーリーがあるんだろうぜ」


カトーとユーマのやり取りを、リリアンジェはぼんやりと聞いていた。やがて、「騎士の方々は整列をお願いします」と、係員の大きな声がした。



式が始まり、激励賞、銅賞、銀賞の騎士団が選ばれ、壇上で表彰されていく。リリアンジェはその様子をただ眺めていた。


「大丈夫? リリおねーちゃん」アラタナの声にも、ろくな反応はできなかった。


頭がぼんやりしているのにもかかわらず、自身の不甲斐なさだけはしっかり自覚できており、自己嫌悪の澱は積もっていった。


この式にヒルドがいることなんて、わかっていたはずじゃない! それなのに私は今まで考えないことにして……いざ会ったらこのありさま……。


最後の金賞授与で、ヒルドを中心に天響騎士団が壇上に並んだ。


三十人ほどいるようだが、もちろん全員ではない。天響騎士団の精鋭たちは王都付近の警備や、王都を離れた村や町で治安維持に取り組んでいる。


三年連続、五回目の金賞に輝いた天響騎士団は、大きな拍手に包まれていた。金章ではない年も銅賞以上は確実で、リリアンジェの父が残した実績をゆうに超えている。


軍務省長の開会の言葉は短かったが、閉会の言葉は長かった。帝国ゆるすまじ、今こそ帝国を叩きのめせ、有事のさいには騎士たちの奮闘に期待する。


要約するとそのような内容だ。


帝国との戦争をリリアンジェは経験していない。子供のころに戦争を経験した父は、「帝国から我が国を守るために騎士になったが、リリには戦争のない世界で生きてほしいものだ」と、よく口にしていた。


ともあれ、式は午前のうちに終了した。このあとは、大規模な懇親会が催される。


「私……懇親会は欠席して……宿で休みます」リリアンジェはボソリといった。


「じゃあ僕も」アラタナが即座にいう。


「私も宿に戻ります。団長のいない懇親会など、羽のない蝶も同然です」ユーマの軽口はあいかわらずだ。


「俺はタダ酒が呑めるなら行くぜ」とはカトー。


ジンは無言ながらも、艶やかな赤髪の女性をチラ見していた。天響騎士団の一員であるローズだ。


武術大会一回戦の夜、彼女をめぐってカトーとジンでなにやらあったらしい。その手のことにリリアンジェはさほど興味ないが、天響騎士団の団員とそういうことになるのはやめてほしかった、との本音はある。


それはともかく、今は早く宿に戻りたい。


「では、私は帰ります。楽しんできて……」リリアンジェが踵を返すと、係員が慌てた様子でやってきた。


「軍務省長がお呼びです」


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