表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/45

天命騎士団、九死(1)

武術大会から一ヶ月が過ぎ、リリアンジェはおおいに忙しそうだった。朝から修行、昼は冒険者として森に入り魔獣を狩る、夕方は修行、夜は修行か座学か内職。


それで一日が終わる。


「俺たちの給金とユーマへの借金返済。さらに皆の修行や団長自身の修行。いい加減、倒れちまうぞ」ジンは苦言をていする。


「騎士団表彰式に出るのです。その団長たるもの、これぐらいは当然です」リリアンジェの瞳はどこまで真っ直ぐで、「ホントに真面目だなぁ」と、ジンは息を落とした。



騎士団表彰式が三日後に迫った日の晩食後、騎士見習いたちがリリアンジェの前に並ぶ。そしてアラタナが装飾された包みを渡した。


「僕たちからリリおねーちゃんに」


「え……なんですか?」戸惑いながらリリアンジェが包みを開ける。


出てきたのはドレスタイプの騎士装束だ。深い緑を基調に、縁取りには細やかな金の刺繍。


「騎士団表彰式で着てね、リリおねーちゃん」


「もちろんです」リリアンジェはエメラルドの瞳を涙で潤ませながら、その騎士装束を抱きかかえた。


「ユーマが気軽に開いた財布で仕立てたんじゃないよ! 僕たちが天命騎士団として、荷運びや畑仕事で稼いだんだ!」


アラタナは意気揚々というが、リリアンジェからの返事はなかった。感極まった様子で、ただただ頷くだけだった。



騎士団表彰式の前日、天命騎士団は王都中央区に前乗りした。表彰式は朝早いのだ。


夕方、ジンは市場をぶらぶらしていると、見知った顔を見かけ、その後を追った。顔見知りの男は誘導するように、ひとけの少ない路地を選んで進んでいく。


やがて、壁に囲まれ袋小路に行き着いた。その壁を背にふたりの女がいた。


男のほうが振り返る。虚弱そうな身体と表情で、「やあ、野犬(フーリグ)。久しぶりだね」


「そうだな、家犬(ハウング)」ジンも男をコードネームで呼ぶ。


「今は『ヤーム』だ」


「わかったヤーム、俺は『ジン』だ」


「ああ、知ってるよ」


「私たちはこの前の任務で一緒だったわね」優しげな表情をした女がいった。女はジンと同年代に見えるが、実際には十ほど歳が上で、この中ではリーダー格となる。


「なんと呼べばいい? 番犬(ケロベグ)


「『マミ』と呼んでちょうだい」マミは柔らかい声でいい、もうひとりの赤毛の女に目を向ける。「ローズはすでにジンと会っているのよね」


ローズは無言で頷き、ジンを見る。射抜くような鋭さがあったが、ジンはあえて無視した。


「ジンは今回、なんの任務でココにいるの?」マミが気軽な口調で聞いていきた。


「どうした?」やや驚き、聞き返す。


同じ組織の一員でも、任務については死んでも明かせない。たとえ拷問されることになっても。ソレが七犬牙(セィルドグ)の鉄則だ。


「聞き方が悪かったわ。私たち三人は同じ任務で来ているのだけど、もちろんお互いに内容は明かせない。もし、私たちとジンが戦うような事態になったら、よく考えてほしいの。任務の内容的に、その衝突がどうしても避けられないモノなのかを」


ジンの任務は、ヒルアナ王国第一王子の抹殺だ。マミたちの任務が第一王子の保護でもない限り、直接的にぶつかることはないが……。


「まどろっこしいわ、マミ」ローズがジンのほうに歩いて正面に立ち、「邪魔をすれば殺す」とだけ残していなくなった。


「ほんとうにアナタたちは仲が悪いわね。改善をはかるためにも今度、夫婦役で任務してもらいましょうか」


そんなジョークとも本気とも取れることを口にし、マミは歩いていった。


「じゃあ、またな」と、ヤームも後を追う。


嵐の予感がして、ジンは大きく長く息を吐いた。



     □□□□



王立中央公会堂に五十の騎士団が集まった。


由緒正しき騎士団、大貴族お抱えの騎士団、飛ぶ鳥を落とす勢いで名声を上げた新参の騎士団、王国主催の武術大会で好成績をおさめた騎士団。


招集された理由はさまざまだが、どの騎士団もこの場にいるに値する雰囲気があった。


荘厳な騎士団、華がある騎士団、強靭そうなもの、勇敢そうなもの。


そんな中で天命騎士団は悪い意味で異彩を放っていた。


見習いは騎士装束を着れない慣例になっているので、町人丸出しのシャツとズボンであまりにも貧相だ。


ユーマは例外的に品格のある高級な衣装だが、それは魔導士ローブなので、悪目立ちするという意味では右に同じだ。


不覚だったわ。騎士装束は着れないにしても、せめて式典にふさわしい格好をさせるべきだった……。


そうリリアンジェは肩を落とす。


「えらい貧相な騎士団だな」「銅貨でも恵んでやるか?」「参加者名簿ではB級ひとりに、四人の見習いらしいぞ」「この式にふさわしいとはいえない。追い出してやろうか」


あたりから、ヒソヒソとはいえない声量で聞こえてくる。これは自分の配慮のなさが蒔いた種だと、リリアンジェとしては耐えるしかなかった。


「そんなヤツラがどうやって?」「ロエンハイム伯爵の大会で優勝したんだとよ」「ああ、あの低レベルの」「しかも実力じゃなく出来レースだったようだぜ。なんでも子供がB級の一刀を指で止めたらしい」「ありえないな。どうしてそんなことが」「噂の第一王子に求婚された令嬢が強要したらしい」「とんでもない淫婦だな」


「誰です! アイナを侮辱したのは!」看過できない言葉にリリアンジェは怒鳴った。


「俺だ、文句があるのか」こちらを向いて一歩前に出たのは、ひどく痩せてはいるものの、やたらと目つきの鋭い男だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ