天命騎士団、決戦(4)
立会人の判断を伯爵が弁明するというので、控室に戻った。待ちかまえるように、伯爵がいた。
「どんな魔術を使ったのか知らんが、そのような怪しい術を使った以上、おぬしらの勝利など認めない」
「お待ちください、伯爵様!」ユーマが切迫した表情でいう。ジンとしては白々しい限りだが。
「なんだね」ロエンハイム伯爵は威圧的だ。
「本大会では魔術を禁止するルールはありません!」
「たしかに。だが黒魔術となれば、話は別だ」
「黒魔術? それは誤解です! ああ、誤解です!」ユーマは芝居がかった声で反論する。
「下民とこれ以上話をするつもりなどない! いいから、ミューラル卿を連れてこい!」
伯爵の怒声に呼応するように、アイナ・ミューラルがカトーを連れて控室に入ってきた。
「どうなさいました? ロエンハイム様」
「おお、ミューラル卿。そなたが推薦した騎士団を、黒魔術使用の罪で、我が騎士団が粛清します」
「お待ちください。どこにそんな証拠が?」
「その証拠は……我が騎士団に勝ったことだ!」伯爵がいってのけた。
ジンは伯爵のツラの厚さに絶句しながらも、天命騎士団の異常さも自覚する。
異世界人に魔人に時守に帝国スパイ、半分は粛清対象となってしかるべきモノなのだ。
「そんなことが証拠にはなりません。敗北を認められないなんて、あまりにも醜いですわよ、ロエンハイム伯爵様」アイナはサファイアの瞳で伯爵を見据える。
「子爵の小娘が、私を愚弄するか!」伯爵が怒鳴ると同時に、帯剣した騎士たちが控室に押し寄せる。
数にして二十人ほどだが、D級ほどの力しか感じず、どれだけ集まろうが脅威とはならない。それでも伯爵は勝ち誇った笑みでいう。
「さて、ミューラル卿、どうなさいます?」
「なにがでしょう?」
「誠心誠意の謝罪と、態度で示してくれるなら……許してやってもよいがのう」伯爵の視線は、アイナの宝満な胸に注がれていた。
「私をただの子爵令嬢だと思っているとは、伯爵様は王都のことには疎いようですわね」
「なぬ!?」
「私がその気になれば、明日にでも王族の一員になれますのよ。そうなれば伯爵様は謀反人ですわね」
騎士たちの間から、文官がひょっこりあらわれ、伯爵に耳打ちした。伯爵は目を見開くと、パッと笑顔に豹変する。
「おお、アイナ様! このたびは天命騎士団の優勝、まことにおめでとうございます。ささやかではありますが、今夜は祝賀会にて優勝をお祝させていただきたく」
なんという変わり身の早さだと、ジンは呆れ驚く。
忍法変わり身の術! いっそうのこと、忍術として命名したいくらいだ。
「ありがとうございます、伯爵。でも祝賀会はけっこうです」
アイナは笑顔でいい、控室を出た。ジンたちもあとを追う。
「やあやあ、アイナ様、助かりました」ユーマが歌うようにいった。
「第一王子の件を、権威や権力として振舞うつもりはなかったのだけど……天命騎士団のためなら私は、悪女にだってなります」
「アイナ様が悪女だなんて!」ユーマは大げさに首を振る。
不意に、「アイナ・ミューラル様」と後ろから声がして振り返る。ミガルドだった。
「アイナ・ミューラル様。リリアンジェ団長殿に伝言をお願いします」
「なにかしら?」
「今回、対決は叶いませんでしたが、十中八九、私が敗北していたでしょう。年内にあるA級審査への挑戦を、おすすめします」
「責任を持って伝えます」ふわりとアイナは騎士式の敬礼で応じる。
「ありがとうございます」ミガルドはやや恐縮気味に、敬礼を返した。
「さて、みなでリリアンジェ団長殿に優勝報告へ行きましょう」アイナは軽やかに歩きだす。
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リリアンジェは病院の待合室で、窓の外に目をやった。日は高く、目の前を流れる小川が煌めいている。
試合開始時間はとうに過ぎていた。自分が戦うことなく、ロエンハイム騎士団の優勝が決まっているだろう。
ただ、試合に間に合ったところで、優勝できないことは昨晩の時点でわかっていた。
それは別にいいのだが、心残りとしてはミガルドと戦えなかったことだ。今の自分が、A級にどこまで通用するか、ぜひとも試したかった。
施術室の扉が空き、リリアンジェが駆け届けた妊婦が出てきた。パンパンに膨らんでいたお腹は、すっきりとしている。
「無事、産まれましたか?」
「えっ、まだいたの?」女が迷惑そうに眉をよせる。
「その……せっかくですし、赤ちゃんを見たいなと……」戸惑いながら答える。
「……赤ちゃんはいない。ただの便秘だったの」
「ええっ!?」
「じゃあ、そういうことで」と残して、妊婦あらため便秘女は、逃げるようにいなくなった。
リリアンジェは気力なく、よれよれと揺れながら窓に肘をつく。
明るい日差しの中で、にこやかに歩いてくるアイナが目に入った。
その脇では、天命騎士団の騎士見習いたちが、おのおのの表情で歩を進めている。




