表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/45

天命騎士団、決戦(4)

立会人の判断を伯爵が弁明するというので、控室に戻った。待ちかまえるように、伯爵がいた。


「どんな魔術を使ったのか知らんが、そのような怪しい術を使った以上、おぬしらの勝利など認めない」


「お待ちください、伯爵様!」ユーマが切迫した表情でいう。ジンとしては白々しい限りだが。


「なんだね」ロエンハイム伯爵は威圧的だ。


「本大会では魔術を禁止するルールはありません!」


「たしかに。だが黒魔術となれば、話は別だ」


「黒魔術? それは誤解です! ああ、誤解です!」ユーマは芝居がかった声で反論する。


「下民とこれ以上話をするつもりなどない! いいから、ミューラル卿を連れてこい!」


伯爵の怒声に呼応するように、アイナ・ミューラルがカトーを連れて控室に入ってきた。


「どうなさいました? ロエンハイム様」


「おお、ミューラル卿。そなたが推薦した騎士団を、黒魔術使用の罪で、我が騎士団が粛清します」


「お待ちください。どこにそんな証拠が?」


「その証拠は……我が騎士団に勝ったことだ!」伯爵がいってのけた。


ジンは伯爵のツラの厚さに絶句しながらも、天命騎士団の異常さも自覚する。


異世界人に魔人に時守に帝国スパイ、半分は粛清対象となってしかるべきモノなのだ。


「そんなことが証拠にはなりません。敗北を認められないなんて、あまりにも醜いですわよ、ロエンハイム伯爵様」アイナはサファイアの瞳で伯爵を見据える。


「子爵の小娘が、私を愚弄するか!」伯爵が怒鳴ると同時に、帯剣した騎士たちが控室に押し寄せる。


数にして二十人ほどだが、D級ほどの力しか感じず、どれだけ集まろうが脅威とはならない。それでも伯爵は勝ち誇った笑みでいう。


「さて、ミューラル卿、どうなさいます?」


「なにがでしょう?」


「誠心誠意の謝罪と、態度で示してくれるなら……許してやってもよいがのう」伯爵の視線は、アイナの宝満な胸に注がれていた。


「私をただの子爵令嬢だと思っているとは、伯爵様は王都のことには疎いようですわね」


「なぬ!?」


「私がその気になれば、明日にでも王族の一員になれますのよ。そうなれば伯爵様は謀反人ですわね」


騎士たちの間から、文官がひょっこりあらわれ、伯爵に耳打ちした。伯爵は目を見開くと、パッと笑顔に豹変する。


「おお、アイナ様! このたびは天命騎士団の優勝、まことにおめでとうございます。ささやかではありますが、今夜は祝賀会にて優勝をお祝させていただきたく」


なんという変わり身の早さだと、ジンは呆れ驚く。


忍法変わり身の術! いっそうのこと、忍術として命名したいくらいだ。


「ありがとうございます、伯爵。でも祝賀会はけっこうです」


アイナは笑顔でいい、控室を出た。ジンたちもあとを追う。


「やあやあ、アイナ様、助かりました」ユーマが歌うようにいった。


「第一王子の件を、権威や権力として振舞うつもりはなかったのだけど……天命騎士団のためなら私は、悪女にだってなります」


「アイナ様が悪女だなんて!」ユーマは大げさに首を振る。


不意に、「アイナ・ミューラル様」と後ろから声がして振り返る。ミガルドだった。


「アイナ・ミューラル様。リリアンジェ団長殿に伝言をお願いします」


「なにかしら?」


「今回、対決は叶いませんでしたが、十中八九、私が敗北していたでしょう。年内にあるA級審査への挑戦を、おすすめします」


「責任を持って伝えます」ふわりとアイナは騎士式の敬礼で応じる。


「ありがとうございます」ミガルドはやや恐縮気味に、敬礼を返した。


「さて、みなでリリアンジェ団長殿に優勝報告へ行きましょう」アイナは軽やかに歩きだす。



     □□□□



リリアンジェは病院の待合室で、窓の外に目をやった。日は高く、目の前を流れる小川が煌めいている。


試合開始時間はとうに過ぎていた。自分が戦うことなく、ロエンハイム騎士団の優勝が決まっているだろう。


ただ、試合に間に合ったところで、優勝できないことは昨晩の時点でわかっていた。


それは別にいいのだが、心残りとしてはミガルドと戦えなかったことだ。今の自分が、A級にどこまで通用するか、ぜひとも試したかった。



施術室の扉が空き、リリアンジェが駆け届けた妊婦が出てきた。パンパンに膨らんでいたお腹は、すっきりとしている。


「無事、産まれましたか?」


「えっ、まだいたの?」女が迷惑そうに眉をよせる。


「その……せっかくですし、赤ちゃんを見たいなと……」戸惑いながら答える。


「……赤ちゃんはいない。ただの便秘だったの」


「ええっ!?」


「じゃあ、そういうことで」と残して、妊婦あらため便秘女は、逃げるようにいなくなった。


リリアンジェは気力なく、よれよれと揺れながら窓に肘をつく。


明るい日差しの中で、にこやかに歩いてくるアイナが目に入った。


その脇では、天命騎士団の騎士見習いたちが、おのおのの表情で歩を進めている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ