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天命騎士団、決戦(3)

相手の騎士が嗜虐心の滲んだ笑みを向けてくるなか、開始の太鼓が鳴る。


「さすがにこれぐらいは防ぎなよ、見習いさん」まずは挨拶代わりにと、騎士が軽く木刀を振ってきた。


ジンはその一刀を木刀で受け止め、同時に高速で蹴りを放つ。この会場内で、その蹴りを見えたモノはいないと自負する。


続けて、騎士の肩口に木刀を振り下ろした。これをしないと、騎士は勝手に倒れたことになるのだ。


騎士見習いの一刀に崩れてしまったB級騎士、観客席が戸惑いの声で揺れる。


「なにをやっている。早く起きんか!」中立であるはずの立会人が、その騎士を起き上がらせようと、腕を引っぱる。


だが、彼は完全に失神状態だ。ジンの見立てでは、数時間は目が覚めないだろう。武術大会でその数時間を引き延ばすことなどできるはずもなく、やがて立会人はジンの勝ちを不服そうに宣言する。


会場はため息に包まれた。


自陣に戻ると、ユーマは考え込む仕草で待っていた。「どうやったのですか?」


ジンが答える前に、アラタナが回答を出した。「ユーマには見えなかったの? ジンが蹴ってたじゃない」


「いえ、本当は見えてましたよ」すました表情でユーマがいう。


「へー、そう? じゃあ問題です。ジンが蹴ったのは左足? それとも右足?」


「……右」


「残念」アラタナは首を振る。


「というのは冗談です。ほんとうは左!」


「右足で正解だったんだよ」アラタナがしたり顔でいう。


「魔人なんてものは、やはり人類の敵ですね」ユーマはプイッと顔を背ける。


そんなやりとりをしている間に、立会人がおんぶするような体勢で騎士を無理矢理立たせ、相手陣地まで運んだ。


担架で運べば楽だとしても、そのような落ち度があってはならないのだろう。


身体が小さく、頭には白いものが目立つ立会人には酷な作業で、その疲労は隠しようがなかった。


「さてさて、次は私の番ですね」


ユーマがのんびりと舞台に上がるなか、副将の表情を険しかった。ロエンハイム閣下の騎士団として、これ以上の失態は許されない状況なのだ。


開始の太鼓が鳴る。


覚悟が灯る顔とはうらはらに、副将に動く気配はない。やがてユーマは、「えいっ」と間の抜けた声で木刀を水平に振る。


胴に当たって副将はカエルのようにひっくり返る。


自身が使えるかは別として、ジンは魔術の知識を豊富に持っている。呪術や妖術にも並ならぬ見識がある。それでも、ユーマがなにをして副将がそうなったのかは、サッパリわからなかった。


またもや立会人が副将をなんとか立たせようとするが、動く気配はない。しばらくの時間稼ぎがあってから、立会人はユーマの勝ちを宣言した。


ユーマは自陣に戻ると、「どうやったかわかります?」と挑発的な笑顔でいう。


「超高速で構築した催眠魔法」とアラタナが答える。


正解だったのだろう。「間違いなく魔人は人類の敵です」とユーマは不満げだ。


担架こそ使わなかったものの、今度は引きずるようにして立会人は副将を下がらせた。観覧席から困惑のざわめきが押し寄せるなか、両陣営の大将が舞台に上がる。


一方は筋骨隆々の巨体、もう一方は十歳ほどの少年だ。


自身の敗北はチームの敗北。巨躯の大将から、油断など微塵も感じられない。


すでに伯爵の怒りは、釈明だけで通過できる状況にはない。チームの汚名返上とまではいかなくても、せめて自分は伯爵の怒りの渦の外でなければならない。そう彼の血走った眼は語っていた。


太鼓が鳴ると同時に、少年を殺す覚悟が籠もった一刀が飛ぶ。


アラタナはそれを、ナッツでも食べているような気軽さでつまむ。


そのまま無造作につまんだ木刀を振り抜くと、大将はボールのように飛んでは転がり、場外へ落ちた。


アラタナが振り返り、得意げな表情。


その表情を翻訳すると、「ほら、僕が一番相手を弱そうにやっつけたでしょ!」


やり過ぎだ。こんなのどう考えても、普通じゃない。


「やれやれ、あの魔人はまだ二歳未満。この世界のことなどわかっていないのです」ユーマは勝ち誇るように口角を上げ、アラタナを非難する。


「アラタナはそんなに幼いのか? ユーマと親しげだから、同じほどの歳かと思っていた」


「歳は見かけによらないのですよ。ひとつ勉強になりましたね」


「そうか……」とジンはぼんやりつぶやきながら、立会人が「無効試合!」と叫んで回るのが目に入った。




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